4.





 その伊織は現在、どこへいるのだろうか。彼女の後を追ったはずの兵からの伝令は無い。結局、城から脱走した彼女の行方は知らないのだ。
 だんだん不安になってくる。本当は家出なのかもしれない。自分は、からかわれただけなのでは、と。どいせ着いて来ないのならば少々意地悪を言おうという伊織の悪戯心だったとか。
 そんな部下の不安を察知したのか、とん、と志摩に肩を叩かれる。あまり絡みはないのだが、そういえば彼は雲雀の直属の上司である。

「浮かない顔をしているな。どうした?」
「いえその・・・そういえば、伊織殿の行方は結局知らないままだな、と」
「・・・・」

 しん、と辺りが静まり返った。同時に集中する視線、視線、視線。
 何だ何だと思っていれば、重々しい口調で石動が言った。

「忘れていたが・・・そういえば、伊織はどこへ・・・?」

 ――あんたが娘の不満に対してあれこれ悩みまくってたからだろう。
 誰もがそんな顔をしたが、国の最高権力者を詰る事も出来ずに再び重い沈黙が場を支配しただけに留まる。そんな馬鹿げた理由で命を投げ出すような無鉄砲な人間はいなかったのだ。
 気を取り直したように志摩がすっ、と表情を引き締めた。さすが、石動と付き合いが長いだけあってこういうまさかの事案にも瞬時に対応。最近、彼は中間管理職としての動きが板に付いてきた。

「いえ、目星そのものは付いています。神楽木邸か街のどちらかでしょう」
「神楽木はなくないか?千石がいるのだぞ」

 むしろ、と志摩が吐き捨てるように言う。

「千石であるからこその神楽木ですよ、石動様。彼の賢明さは我々の物差しで測れぬ所があります。才人と努力人の違い、というか」
「うむ・・・」

 考え込む二人の政務者。ただならぬ空気に口を挟む事すら躊躇われ、再び室内は静まり返った。

「志摩よ。お前の意見はあれだな、消去法よな?」
「そうですね」
「それ以外に行く所が無いが故に、その二択なのだろう?」
「はい。では父として、姫様がよく行く場所を知らないのですか?」
「知らん。余は基本的に娘を城外へ出したくないのだから」
「でしょうね」

 剣呑。
 いつもは一色、悟目と他の面子に均等に分配される主の無理難題は現在、志摩一人に降り掛かっている。
 そうすれば気は長い方である志摩もとうに限界を振り切って苛立ち始めているのも当然のことだ。ここに、あと一人誰かいればよかったのに。
 ――それは、考えても仕方のない事だけれど。