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「迎撃態勢を布きます!いいですね、石動様!」
ほとんど石動を睨み付けるように強い目で見、志摩がそう宣言した。やっとか、と雲雀は息を吐く。軍議に参加しているのが上司達である以上、実直な男である雲雀が易々と口を挟む事はそもそもから躊躇われていたのだ。
東帝は渋々、といった様子で頷く。非常に何か言いたそうな顔だったが、志摩があまりにも憤慨しているからか、終にそれが言の葉となることは無かった。
「して、志摩よ。布陣については――いや、お前に任せよう。悟目は一時、立ち直ってくれそうにない」
「殿よ、俺は軍師ではないのですよ」
「あちらにも軍師はおらん。ならば条件は同じよ」
「伊織姫がいらっしゃるでしょう」
「戦場にも出た事の無い人間を軍師とは言わん。《先見》だけは警戒せねばならんが、所詮あれもまじない程度だろう」
どの口で戦場に立った事が無い、などと言うのだろうか。本気で疑問に思った雲雀だったが、頭を振ってその考えを無理矢理掻き消す。突っ込んだら負けだ。
「しかし無知とは恐ろしいものよな。おかげで、伊織が一体どんな手を打ってくるのか解らぬ」
「そうでしょうね。一体、どんな無謀な手を打ってくるのか」
「あの・・・!」
思い切って意見を述べようと声を張り上げる。少し驚いたような志摩の顔と、面白そうに微かに笑った石動の顔が見えた。
「申してみよ、雲雀」
「・・・無謀な手は、打たないと思います。向こうには六角殿もいらっしゃるし、何よりあの神童がついていながら、兵法から外れた手は打たないでしょう」
「一理あるな。そうか、千石がいたのだった」
洞門南雲もいるのだろうが、はっきり言って彼は六角と同じく脳筋派だ。布陣だの策だの、小難しい事を考えるような奴では無い。
神妙そうな顔をした志摩が肩を竦めて首を振る。
「先程、石動様は姫様が本気なのか分からないと仰いましたが、迎撃態勢を取ればそれはおのずと分かってくる事でしょう」
「ほう?」
「圧倒的な兵力差を前に引かず、向かって来るようであれば、本気でしょうね」
「ふむ・・・そういう方法も有りなのだろうな」
「えぇ。出来れば、姫様には兵力差を知ってもらい、投降していただくのが一番かと」
それが完全に妥協案である事は明白だったが、まるで誰もが気付いていないかのように振る舞う。伊織がもたらした暗雲は思った以上に濃いようだった。