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金属と金属が触れ合う、一種不愉快な音が室内に反響する。向かって来るのは千石だけで、他の連中は手を出しあぐねているようだった。親子対決に水を差していいものか、と。
ただし、一色はそこまでお人好しではない。
触れ合った刀身に力を込め、千石を一旦引き離す。それと同時に片手を挙げた。
「っ!」
両脇から現れた兵2人が室内にも関わらず矢を放つ。彼等は志水付きの護衛兵だが、彼女は安全圏に避難しているので偶然にもこちらの部屋へ戻って来ていたのだ。そんな彼等は家主の無理難題にも当然の如く慣れており、まるで躊躇する素振りもなく室内で矢を放つという暴挙をやってのけた。
ただしたった2本の矢で千石を討ち取れるわけがないのもまた、事実。
顔を歪めた息子が刀を一閃させる。それだけで真っ直ぐに彼へと向かった矢は叩き落とされた。
それを見届けた一色は――
「まっ、待て、父上!」
あっさりと踵を返す。戦闘の意志を見せつけていながら、あまりにも唐突にあっさりと未練もなく背を向けた一色への反応が遅れたらしい息子の怒号が聞こえたが、無視した。
現状、息子と父の実力が拮抗していた為に手を出さなかった伊織達はあるいは少しでも千石が押され始めれば手の平を返して加勢する事だろう。そんな事になれば人数の利で押されるのは見えている。
よって、志水と高千穂の身も案じていた一色は苦杯を飲む事にした。
――それに、どう見積もっても彼等は反乱を起こした、つまりは謀反を起こした逆臣達。このまま放っておけばどうなるか分かったものではない。早々に城へ連絡する必要がある。
隣室へ。ともあれ志水達を回収する必要がある――
「・・・志水よ。高千穂はどこへ行った?」
「えぇ・・・それが、どこかへ行ってしまったのですよぅ」
「行ってしまった?・・・ええい、もういい!行くぞ、志水!」
腕を掴んで引っ張ると脳天気な彼女ははて、と首を傾げた。
「あらあら。千石の声が聞こえたし・・・何だか、伊織ちゃんの声も聞こえたわぁ」
「気のせいだッ!」
「引っ張らないでくださいよぅ」
邸から出ようとしたところで、連れてきた志水があ、と声を上げた。何だと振り返ればとても困った顔をしている。
「お客様にお茶を出して来てないわ」
「客ではないぞ、奴等は!侵略者だ!」
「もう、伊織ちゃんに何てことを言うのですか?」
それだけ言い残し、妻はあっさりと踵を返して邸の中へ戻って行った。引き留めようとすれば兵に引き留められる。曰く、今戻れば捕まりますよと。
「くっ・・・志水・・・馬鹿な事を・・・ッ!」
「あれ、一色様泣いてね?」「いやでも志水様が・・・」「夫婦仲はいいのに意志の疎通が出来ないよな、あの人等」――散々待たせている兵にそう噂をされていた一色だったが、この時ばかりは反論する気力も失せていた。