3.





 息子を睨み付けるように見ていればその後ろからぞろぞろと伊織を筆答に見覚えのある武将達が上がって来た。その面子を見て、これだったら裏口においていた兵だけでは到底足りないだろうな、と溜息を吐く。
 まるで、戦でも始めるような布陣。それに対して邸宅を守る以外の目的を持たない神楽木の率いる軍など塵も同然だったのだ。
 眉間に皺を寄せた一色。心底不機嫌な時の彼の癖だったが、どうにも千石はそれが気に入らなかったらしい。父親に似て気難しそうな顔をさらに気難しそうに歪めた彼は不満そうに言葉を口にする。

「おや、もっと驚いてもよかったのではありませんか、父よ」
「この惨状はお前の指示か、千石」
「いいえ。提案したのは俺ですが、引き起こしたのは我等が大将ですよ」

 刹那には鳳堂院伊織が微笑んだのを見逃さなかった。それが形だけなのか、或いは彼女に連なっている全ての武将が彼女の志に惹かれて共にしているのかは分からない。

「何故、この邸を襲う」
「――少々、お借りしたいだけですよ。まだ父上にはこの家にいてもらわねば困りますから」
「よく言う。我が息子ながら、本当に恐ろしい奴よ」

 圧倒的な数上の不利。
 自分を護る兵はいない。
 息子は敵側だ。
 その上、隣室には妻子を匿っている。

「ふっ・・・くくくっ・・・はははははは!」
「父上、気でも触れましたか・・・?」

 こみ上げて来る笑い――哄笑。
 久しい高揚感はきっと、忘れていた戦場を思い出したからだ。
 平和過ぎるのも問題だな、と興奮する頭の隅で変に冷静な事を考える。いつもそうだ。例えば東国統一の最終決戦でも。最期まで、いくら興奮しても頭のどこか少しに冷めた部分がある。
 きっと今も、そう。
 千石の背後にいる大将、姫君たる伊織の瞳が胡乱げに瞬くのを見た。一体彼女はどんな未来を視ている事だろう。

「千石様・・・ッ!」

 そう伊織が囁いたのと一色が隠し持っていた刀を構えたのはほぼ同時だった。

「かかって来い、ひよっこ共め!その愚かしさをこの私が、教えてやろう!」

 ふん、と鼻を鳴らした千石もまた構え直す。
 ――まるで鏡写しのようだ、と言ったのは誰だったか。