3.





 どうせ通り過ぎて行くだろう、と思われていた謎の一団は何故か一直線に神楽木邸へ押し入って来た。城と比べれば少ない兵力では太刀打ち出来ない程の、軍。
 ――そんな反乱軍などいただろうか、と思考を巡らせているところで伝令が再び駆け込んで来た。

「次は何だ」
「邸前に配置していた兵は全て、躱されました!どうやら、その・・・邸に詳しい人間がいるようで・・・」
「裏切り者がいる、か。私も落ちぶれたものよ」

 裏切りに気付かないなど。とは言わなかった。平和ボケしていたのだ、と自らを戒めつつ状況が厳しい事を悟る。城ではなく邸である神楽木の家には侵入者に対抗しうる道具も兵も無い。
 というか、状況が異常だとしか形容出来なかった。
 一体何の為にこの神楽木邸へ?兵糧もそうたくさんあるわけではないし、広いわけでもない。

「し、指示を!一色様!」
「その軍はどこへ回った?邸の裏か?」
「はい。裏口へ回ったようです」

 ――頭が痛い。あっさり裏口を見つけるところを見る限り、やはり裏切り者がいる。現在、この家には要人が三人。今はいない千石を合わせれば四人。その中の誰の首を狙っているのか。
 しかし、このままされるがままになるつもりは毛頭ない。
 ぱっ、と袖を翻し一色は声を張り上げる。

「貴様は石動殿のもとへ走れ。直ぐさま現状を報告せよ!」
「はっ!」
「裏口の兵は――」

「伝令。その必要は無いかと思います」

 指示を遮るように冷淡な声が響き渡った。外へ走りだそうとしていた石動への使者の足が止まる。
 薄い唇に浮かべられた微かな笑み、手にした片刃の剣――刀。
 そういう事か、と掠れた声で一色は呟く。

「千石・・・ッ!」

 今度こそ本当に、実の息子である神楽木千石は微笑んだ。刀を手にしたままで。

「こんにちは、父上。お覚悟を」