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親子の団欒を妨げたのは、駆け足で部屋へ乱入してきた伝令兵だった。あからさまに一色が眉根を寄せて顔をしかめる。
「何だ、騒々しい」
「ほ、報告しますっ!謎の一団が、この、神楽木邸に接近しておりますッ!」
「どういう意味だ?落ち着いて話せ」
本気で意味が分からず、一色は余計に眉間の皺を深くした。そこで、くすくすと楽しげに笑う志水から額を小突かれる。
「まぁ、恐いお顔ですよ。貴方が落ち着いてくださいな、一色様」
「・・・いや志水よ、多分今、それどころじゃ――」
「伝令さーん。このお馬鹿夫婦は放っておいていいから、状況を説明してくれない?」
「あ、はっ!」
高千穂の呆れたような声で我に返る一同。彼女はこの場で一番落ち着きを払っており、残った茶を飲んでいるところだった。落ち着き過ぎてこちらが落ち着かなくなる所行である。
「その一団、というのは・・・他国の侵略者共か?旗は?」
「旗は、その・・・何も持っておりません」
「持っていない?反乱軍か?ふん、我が邸宅を過ぎれば市街地だぞ。城の奴等は何をやっているのだ・・・」
一瞬だけ何か考えた一色はしかし、すぐにそれが無駄である事を悟った。神楽木邸に反乱軍が欲しがる物など無い。要地でもないし、ここへ来る意味は差ほど無いと言わざるを得ない。
相手の考えている事が分からない以上、一色に残された手は受け身の姿勢として迎撃態勢を取る事だけだった。
「兵を布け。正面入り口と裏口を固めろ。もし、その一団とやらがこちらへ見向きもせず通り過ぎるようであれば、後ろから襲ってやれ」
「うわー、清々しい程外道っすねー、お父様」
「ふん、何とでも言え。志水、高千穂。お前達は別室へいろ」
「えー、あたしも参加しなくていいんですか?緊急事態なんでしょう?」
高千穂の申し出に一色は否、と首を振った。
「お前はすでに九十九の人間だ。神楽木姓を名乗るのも、今後は止めろ。そもそも、お前は本来ここにはいないはずだったのだから、お前が安全圏内にいることは当然なのだ」
「へぇ・・・。そう言うのでしたら、お母様と避難してますよぅ?」
「構わん。さっさと行け。お前達がいると気が散ってかなわん」
ご武運を、と言いのこして志水が踵を返す。高千穂もまたそれに素直に従った。