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所変わって神楽木邸。
30分程前に帰宅した家主、神楽木一色は優雅にお茶の時間を過ごしていた。目の前には嫁いだ娘、神楽木高千穂、右隣には妻である神楽木志水を従えて。
「一色様、今日は早かったですね」
あぁ、と妻の言葉に一色は頷く。そしてげんなりした顔で肩を竦めた。
「さすがに毎日毎日、石動殿の執務を見張る必要も無いだろうと思ってな。それより、志水よ、高千穂はいつまでいるのだ?」
「――お父様はもうあたしが帰る話してるんですかー?そーんなに帰って欲しいなら、もう帰りますよ。雲雀殿はまだ城ですし」
「む。そうとは言っていないだろう。家を出たり入ったりされるのは好まんから、予定を訊いたまでだ」
えっと、と悩む高千穂に代わり、志水が口を開く。その手には羊羹を持っていた。
「高千穂は明日の朝には帰るそうですよぉ。よかったわね、お兄様に会えるわよ、高千穂」
「えー。兄様は面倒だから、あまり会いたくないですよぅ」
「あらあら」
頭が痛くなってくるような会話だな、と思いながらも家主は志水が差し出す羊羹を素直に受け取った。一口含む。程良く冷えていた。
「あらぁ?ご機嫌がよろしいようですね、一色様」
「・・・いや、そんな事は無いだろう」
「娘が帰って来て嬉しいのでしょう?もう、そんなに照れずともいいじゃないですか」
気持ち悪い、と呟いた娘の言葉は聞こえなかった事にした。出来れば今の状態を上司である石動に見せてあげたい。すぐにでも娘を嫁がせたくなるはずだ。
「高千穂よ。お前、九十九では上手くやっているのか?雲雀からお前に関する苦情は聞いた事が無いのだが・・・」
「大丈夫ですよー。雲雀殿、あたしに対して甘いしー、結構自分で何でもやっちゃう人なんであたしが多少失敗しても、何のそのって感じっす」
「ならばいい。お前の壊滅的な手料理を見た時は、一生うちでお前の面倒を見る所まで先読みしてしまったからな・・・」
「えー。伊織様はそんな事、言ってなかったけどなぁ」
ちゃっかりしている所がある娘は嫁ぎ先でものらりくらりと過ごしているようだった。とは言っても、城住まいなので姑いびりなどの心配も無いわけだが。出来れば、神楽木邸で暮らして欲しいというのは親心である。