2.





「分からないな」
「何がだ、志摩よ」
「いえ・・・姫様がこれからどう動くか、です。すでに城内にいたというのに、外へ出て行く利益を考えています」
「体勢を整える為だろう。余が謀反を起こしたとしても、いきなり暴れ出したりはせんな」
「どこへ行くのですか?石動様は行く宛てなどいくらでもあるでしょうが、姫様はそうではありません。彼女が持つ全てのものは貴方と繋がりがある」

 伊織個人の所有物は少ない。彼女を護る兵も、元を辿れば石動のものだ。この城下町も、彼女の部屋でさえも、城内にいる武将の全てさえも、全ては石動の所有物に他ならない。そんな中で伊織姫を匿う、匿ってくれるような人物などいるものだろうか。

「城を包囲するつもり、などでは?」

 雲雀の提案に首を振る。
 それには根本的な問題があった。

「兵の数が足りないだろう。たかだか三人の武将で掻き集めた兵力など、たかが知れている」
「むう・・・。未知の部分が多すぎるな。忘れてはいまい。伊織には《先見の目》がある」
「それもですね。一体、どこまで先読み出来るのか・・・場合によっては、我々の大敗という可能性も。向こうには六角殿がいるし、何より今、彼に大損無く有効打を持つ春雨は遠征中です」

 六角と正面からぶつかって苦も無く勝てる者は現在において石動ぐらいしかいない。悟目はこの通り軍師だし、志摩と六角の相性は悪い。彼の武人には飛び道具が一番なのだ。

「春雨はいつ帰る?」
「早ければ後数時間後、遅ければ数日後です」
「何故そうも時間差があるのだ・・・」
「圧倒的な火力不足を、地の利で補えた場合の春雨は強いですが失敗すると時間が掛かります」

 仕事にムラがあるのだ、柳場春雨は。手を抜いているわけではないのだが、どうしてここで、という所で失敗する。油断しているわけでもないというのに。

「しかし・・・伊織が・・・あぁ、一体何が不満だったのだ娘よ・・・」
「石動様。それは、後回しにした方が――」
「志摩殿・・・わたし、今から行って・・・伊織さんを説得してみせます・・・」
「いや、悟目さん。貴方がいなくなったらうちの陣営はどうすればいいんだ。それに、あっさり裏切りそうなんだが貴方は。というか姫様の居場所は分からないぞ?」

 収拾がつかない事態になってきた。主にぐずる大人2人のせいで。
 ふと、黙り込んでいる雲雀を見ると早くも東国軍に参加した事を後悔しているような、そんな顔をしていた。当然である。
 ――ああ、こいつ、裏切りそうだなあ。
 嫌な予感。