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10年前から4人増えた武将に加え、城内にいる主格の武将達は9名となった。それに伊織を加えれば10名。
だが集められた人数はたったの3人だった。最初から執務室にいた鳳堂院石動、仲間集めに奔走した更科志摩、部屋で執務に勤しんでいた土御門悟目。ただし、帰宅した神楽木一色と遠征に出向いている柳場春雨はいなくて当然なのだが。
――少ない、あまりにも。
とくに若輩達の姿が無い。洞門南雲ならばともかく、九十九雲雀まで見当たらないのは正直に言って異常だった。
「志摩よ、半分以下ではないか。どうなっている」
「それは・・・俺に訊かれましても」
あのぉ、と控え目に声を上げたのは悟目だった。そういえば彼は唐突に召集を掛けられた挙げ句、ちゃんと集合したのに何の話も聞かされていないのだ。普通は怒っていい場面なのだが、彼の沸点は高かった。
「どうか・・・したのですか?」
「伊織の姿が見当たらん。そして、他の者達も・・・一体、どこへ行ったのだ」
「はぁ・・・」
「兵を連れて出て行ったようだが、伊織は何か言っていたか?悟目よ」
「わたしは・・・何も、聞いてませんねえ・・・」
手掛かりは無し。しん、と執務室が静まり返った。
沈黙を破るように志摩が口を開く。
「一先ず兵に追わせていますが、芳しい返事は無いようです」
「そういえば・・・今日、講義の時・・・随分と機嫌が悪いようでしたよ・・・伊織さん」
「何?そういえば朝から伊織に小言を言ったな」
「またですか、石動殿・・・あまり、娘の行動に干渉するものじゃあ・・・ありませんよ」
呆れたように言う悟目に心中で同意する。
しかし、彼の次の発言には驚愕せざるを得なかった。
「家出・・・したのではありませんか?何か、不満があるようでしたし・・・」
「姫様が?まさか、あの温厚で穏和な伊織様が」
「あり得ない話じゃあありませんよ・・・志摩殿。何か・・・思い詰めているようでしたから・・・伊織さん」
「むう・・・。伊織が、家出・・・何故だ・・・!」
「「貴方のせいだろう」」
言葉が被った。主人は意外そうな顔をしている。
愛娘が家出したかもしれないのに、相変わらずの不遜な態度。兵が着いていると聞いているので余裕があるのかもしれない。それにしても、家出に兵士なんか連れて行くだろうか。
「やはり・・・家出、ですか・・・」
「そう気を落とすな、悟目さん。捜そう。伊織様は聡い御方だ。説得すれば、聞き入れてくれるに違い無い」
「あの・・・わたし・・・軍師としての教育をしているのですが・・・簡単に見つかるとも思えないのですよ・・・」
「だが、姫様が我々に我が儘を言う事など、今まで無かったのに」
父親に対しては何かお願いしてみたり、頼んでみたりと色々我が儘を言う伊織だが、志摩に対してそういう態度を取った事は無い。彼女の中で城内の人間は何かしら役目があるのだ。
例えば、相談役は絶対に悟目だと決めているように。我が儘を言うのは父親だけだというように。