2.





 石動の執務室へ行けば彼はぼんやりと空を眺めていた。机の上には山積みになった書簡の山。どう見てもサボっているのだが、そういえば一色はすでに帰宅したのだったと思い至る。
 ほとんど石動の目付役のようになっている彼の心労を思えば、たまに早く帰宅するぐらい大目に見るべきだろう。胃をよく痛めているようだし。

「――石動様」
「おお、志摩か。どうした?」

 うんざりしたようにそう問われた。早く仕事をしろ、と小言を言われるとでも思ったのだろう。

「お耳に入れたい話があるのですが、今、よろしいでしょうか?」

 もしここで「今は無理だ」と言われれば伊織が向かった先へこっそり着いていくつもりだったが、城の主は鷹揚に頷いた。

「聞こう。何かあったのか?」
「伊織様が兵を連れ、馬に乗って外へ出て行かれたようですが――ご存知ですよね?」
「・・・伊織が・・・?」

 ――雲行きが怪しい。
 みるみるうちに石動の表情が変わるのを見て、志摩は舌打ちしたい心境にかられた。悠長に報告している暇があったのならば、誰かに伊織を追わせておくべきだったのだ、と。
 完全に自分の失態である。

「いや、余は何も言っていないし聞いていないが・・・兵、というのは兵士だけか?他に誰も着いていないのか?」
「それは・・・他の者を集めてみない事には分かりません」
「千石は確か、今朝から執務に励んでいたぞ」
「えぇ、そういえば彼の姿も見ませんね」
「他には誰が――ええい、召集を掛けろ、志摩!城内にいる武将を全て集めろッ!」
「御意」

 ぱっ、と身を翻す。すれ違った兵士3名に、伊織を捜すよう命じ、見つけた場合は後を追うように指示を出す。
 いつもは廊下を走る人間を注意する側であるはずの志摩は今、その廊下を全力疾走していた。