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「えーっと、まずは今からどうするんです?もう攻め込むっていうか、すでに内部に入り込んでるわけですが」
「馬鹿か。兵もいない、武器も揃えていない今の状態で皇帝殿に仕掛けても返り討ちに遭うだけだろう」
「じゃあどーすんだよ」
神童はそんな事も解らないのか、と鼻を鳴らして嗤った。その動作がやけに様になっているからか苛立ちをこれでもかと煽る。
説明する機会を伺っていたのか、六角が口を挟んだ。
「まずは体勢を整える為、神楽木の邸宅へ向かうぞ」
「へっ!?ちょちょちょ、六角殿!?神楽木家の嫡子がいらっしゃる前で何言ってるんですかッ!」
ぎょっとして神楽木千石の方を伺う。このまま成長すればまず間違い無く、彼は神楽木の家を継ぐ事だろう。
――いや、伊織の采配次第では時期皇帝候補なのかもしれない。
ともあれ、そんな彼が自宅に進軍すると言われて黙っているはずが無かった。記憶では彼等の家族仲は悪くない。少なくとも鳳堂院の家よりは随分マシだったはずだ。
六角の喧嘩を売っているとしか思えない発言。それに対し、千石はいやに自信たっぷりに頷いた。
「そういう事だ。今、我が家には姉上と母上、さらに小一時間前に帰宅した父上しかいない。邸宅の方にはたいした兵卒もいないのだから、武将3人でかき集めた兵を連れて行けば簡単に落とせよう」
「おーい・・・」
「父上は自信過剰な年寄りに過ぎん。その慢心を上手く突けば、何の損害も出すこと無く事は済むだろう」
「おいちょっと!誰だよこんな物騒な事考案した奴!」
「うるさいぞ南雲。提案者は俺だ」
「お前自分の家を何だと思ってんだ!!」
提案者は千石自身だった。自分の家を自分の家だとも思わない所行に戦慄さえ覚える。だがしかし、よく考えてみると彼は最初からこうだった。
こうなれば味方は心優しい伊織しかいない。彼女ならば、神楽木一色はともかく義母や義姉については心を痛めて制止の声を上げてくれるかもしれない。誰が何と言おうと、大将である彼女が止めると言えば、止めだ。
「姫様・・・ちょっとあれ、止めてくださいよ。後で文句言われんのって十中八九、俺ですよ。一色殿は癇癪持ちだし・・・」
「いいと思う」
「はい?」
「良いと思うよ。その作戦!一色殿の驚いた顔が見られるところが特に良い!!」
「ふん、そうだろう、伊織。父上の驚愕した顔を見たいだろう?」
――いかん、うちの唯一の良心も大分この空間に毒されてる。
ああ、俺がしっかりしないと。これ下手したら小言だけじゃ済まない気がする・・・。
ひとまず不憫な一色に心中で合掌し、如何にして彼の視界の中に入らないようにするか本気で悩み始めた。