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伊織に導かれてたどり着いた先は神楽木千石の部屋だった。どうやら、ここを現在の拠点としているらしい。伊織は一応女の子なので賢明な判断だと言わざるを得ない。
声を掛けること無くまるで自分の部屋のようにずかずかと中へ入って行く。南雲もまた同じようにその後に続いた。
「今、帰ったよ。南雲は快く参加してくれるって」
「おーう、そうか!やはり俺の部下だ!」
「ファッ!?」
聞き覚えのあり過ぎる声。
ぎこちない動きでそちらへ顔を向ける――
「ろ、六角殿・・・どうしてここに・・・!?」
阿世知六角。
南雲にとっては直属の上司であり、同じ隊に配属されている先輩でもある。間違い無く東国で五本の指には入る武将だ。
尊敬はしている、しているが――
「あぁ?いちゃあ悪いのかよ」
「いえいえー・・・滅相もありませんって」
頭が上がらない。どうしても苦手な人種である事だけは間違えようが無かった。
にこにこ笑っている姫君に視線を移す。
「えっとー、姫様?六角殿がいるとは・・・聞いてないんですけど」
「だって最後まで聞かなかったでしょ」
「あー・・・そうですね・・・」
そう答えた伊織の裏事情に先見によるお告げで「南雲には六角が参加している事は言わない方がいい」という前情報があった事はきっと一生南雲が知る事は無いのだろう。
室内を見回せば偉そうに椅子に腰掛けた神童こと神楽木千石の姿が視界に入る。
さらに、自分の一歩前には一国の姫君。
そんな彼女に頼り甲斐のある笑みを手向ける、東国の一番槍。
「うっわー・・・恐ろしい布陣ですねぇ。今から戦でもするような、そうそうたる顔ぶれだ」
姫君が本気だ本気だ、とは思っていたがここまでの面子を揃えるとは思っていなかった。六角が「いるはずない」と思い込んだのも、彼女に一番槍を丸め込む度量が無いと思っていたからだ。
――これは、そう。本気も本気。本当にこの、役者が揃い踏みの強固な東国一の城を落とすつもりなのだ。
「怖じ気ついたの?」
意地の悪い笑みを浮かべて問う伊織に、右手で目の辺りを覆った南雲は答えた。
「いいえ。今、俺、すっげぇ楽しみでたまんないです」