4.





 ――あ、これは地雷踏んだ。
 そう直ぐさま気付いた千石は咳払いを一つ、そうして気の利いた台詞を何個か脳内で用意する。どれが無難なのかを吟味。ここまでを一秒の半分でやってのけ、残った半分の時間を使って言葉にした。

「どうせ下らない事だろう。やはり、聞かなくていい」
「・・・あのさ、千石様」
「何だ」

 俯いていて伊織が顔を上げる。一体何の決心がついたのか、悟ったような顔をしていた。これにより、彼女の中で何かが始まった事を知る。

「私・・・私、お父様に謀反を起こすよ!」
「ファッ!?」
「ん?・・・変な声出して、どうしたの?」

 ――いやお前がどうした!
 心中で絶叫しながらも、表面上は平静を取り繕い、我ながらわざとらしい溜息まで吐いてみせる。無意識下の行動にしては的を射ているな、と頭の隅でどうでもいい事を考えながら。

「何がどうして、お前の中で何が始まったのかは知らないが、そういう事を大声でいうものではないぞ。話だけは聞いてやるから、もっと小さい声で話せ。誰が聞いているとも限らん」
「そ、そっか・・・聞いてくれるんだね」
「お前が聞けと言ったのだろう」

 謀反――
 何て良い響きだ。しかも、相手はあの煩い小姑と来ている。こんな機会、今を逃せば次は無いに違い無い。
 そういう気持ちをひた隠し、座り直す。彼女の考えを一語一句聞き逃さない為に。

「そもそも、何か良策はあるのか?戦線に立った事が無いとはいえ、お前も軍師の端くれだろう?」
「策というか、私が最近色々な人の為にこの《先見》の力を使っていたから分かるんだけど・・・どうも、相手が組んでる策も読めちゃうみたいなんだよね」
「ふむ、それで?」
「いやつまり、敵の要塞地図と計画図を最初から持って城攻めをするようなものだから、失敗する可能性は低いかな。人が、集まれば」

 ――人手さえ足りれば、この強固な城をも落とす事が出来る。
 つまり伊織が言いたい事はそういう事だった。末恐ろしい能力なのに、どうして今まで使って来なかったのだろう。答えは簡単、石動その人の過保護さのせいだ。

「――仲間の目処は?」
「千石様と六角殿、南雲は吉」
「なるほどな。南雲はともかく、六角殿が加わってくれれば――我等の軍に死角は無いな」
「それで、私と来てくれるの?」
「知っているだろう、その、目で。参加しよう。愉しそうだ」