3.





 いい歳こいたオッサンである悟目が泣きながら話したところによると、どうも鳳堂院伊織は今日、ずっと機嫌が悪かったらしい。その原因は不明。本人が語りたがらなかったようだ。
 それに対する神楽木一色の見解はたった一つ。

「大方、石動殿が千石に姑いびりじみた事をやっていると気付いたのだろう。あの娘は相当に鈍感だからな。それが衝撃だったに違い無い。まったく、頭の中まで平和な奴よ。親子喧嘩などして何が楽しいというのか。上に立つ者の考えは、私には分からんなぁ」

 ふん、と鼻を鳴らせば悟目の方からブツブツと呪文じみた独り言が聞こえて来た。彼は呪術に精通していたのだったか、と考えを巡らせるも、人間やる気があれば大抵の事は出来るように創られているので、やろうと思えば出来るのかもしれない。

「いいえ・・・きっと、軍師になることが嫌になったのでしょう・・・。もともと、伊織さんは・・・武人として戦線に立ちたかったので・・・いい加減、わたしに付き合って兵法を学ぶ事に飽きてしまったのかも・・・」
「暗いぞ、悟目さん。そう落ち込んでいてはどうしようもないだろうに」
「そう言う貴方も・・・きっと、面倒だと思っているのでしょう・・・わたしの事など・・・」
「悟目め、面倒な奴よ」
「ちょっと黙っていろ、一色さん」

 同僚同士で不協和音を奏でつつも、話は平行線をたどる。一色にとって伊織がどうであろうとそれこそ知った事じゃないが、彼等がいつまでも部屋にいられると非常に邪魔である。

「軍師になるのが嫌なのではなく、いつまでも戦線に立てないのが悔しいのでは?現に、同じ歳の千石殿は1週間前にも反乱軍を鎮圧するという戦果を上げて来ただろう?つまり、いい加減、石動様の過保護に嫌気が差して来たに違い無い」
「過保護・・・それは、わたしも同じでしょう・・・」
「自覚があったのか。ならば、もっと厳しく接しろ。あぁ、義理とは言えこのまま行くと姫様はまずどうしようもなく私の娘になるわけだからな」

 婚約者止まりの伊織だが、そう遠くない未来、千石と婚姻を結ぶ事だろう。そうなると彼女は正式に神楽木の親類となるわけだ。
 ――頭の痛くなる話である。

「羨ましいですねぇ・・・あぁ・・・ウラヤマシイ・・・」
「止めろ、同僚を呪おうとするなッ!」
「まぁ、それは置いておこう。君達が出した意見だが、全て否定する要素が無い。よって、全てが原因だという見方もあるだろう」

 目を細め、志摩が頷く。
 そうして、言葉をまとめると一人納得したように無表情の中に清々しい何かを生み出した。