2.





 少し集中すればそれはすぐに見つかった。

「えっと・・・その・・・」
「見つかったのか?」
「うん。意外とドジだよね、千石様。部屋に置きっぱなしだけど」

 一応、石動に仕えている身である千石は自宅の他に、うちの城に客室を一つ持っている。家に帰れない時などはここを使って生活するのだ。
 ――で、その部屋に例の探し物は置いたままになっている。
 そう酷使した事は無いが、この先見の能力を外した事は無い。いまだ十割の確率で占いを成功させている。
 ドジ、という言葉に眉根を寄せた千石が頭を振る。

「俺だって疲れている時はある」
「そうだね。仕事、それなりに頑張ってるからね」
「いや、あれは父上の残業を手伝っているだけだ」
「一色殿の?あの人、要領悪いのかな?なんかいつも働いてる気がするんだけど」
「父上は家へ帰っても仕事をしないからな。ああやって溜めるのだ。が、俺が手伝うからという甘えが最近は見え隠れしているな。そろそろ手伝うのを止めよう」
「可哀相でしょそんな事したら」
「お前に可哀相だと思われる方が可哀相だ」

 すっかりほぼ元通りになった機嫌。千石の意外な一面を見たからだろう。乙女の恋心とは単純である。

「行くぞ、伊織」
「はい。今日は仕事で来たって言っていたけど、もう終わったの?」
「そうだな。今日は家へ帰れそうだ」
「そういえば、お姉様の姿を見てないけど、今日は神楽木家にいるつもりなの?」

 義姉、神楽木高千穂。彼女は雲雀の嫁なので神楽木の邸宅より雲雀と共に城にいる事が多い。ので、必然的に話す機会も多いのだが今日はそういえばまだ会っていないのに気付いた。
 それはそうだろう、と千石がその呟きに応じる。

「昨日から姉上は家にいるからな。あの人もあの人で週一ぐらいの割合で家へ帰って来るが・・・誰の差し金だろな・・・。母上かな・・・」
「志水殿は娘の事が心配なんだよ」
「いやたぶん、お前を交ぜて茶会をするつもりだったのだろう」
「それは残念だなあ。お父様さえ良いって言ってくれたら・・・」

 溜息を吐いたところで千石の使う客室へ到着。
 ――まだ若い恋人達は気付かない。先程までの会話を聞いていた人物がいたことに。