2.





 一体、父と婚約者の間にどんな刺々しい会話があったのかを思うと胃が痛んで仕方が無い。千石は『普通はそうなる』みたいな事を言っていたが、やはり第三者の身としては身内どうしで啀み合うのは良くないと思うわけで。
 ――どう考えたって父の姑じみた執着が悪いのだけれど。
 どうやったら止めさせる事が出来るのか、とまで考えたところで思考を中断するように千石が口を開いた。

「このまま帰るのもいいが、今は丁度暇だ。探し物を手伝え、伊織」
「探し物?珍しいね、物を無くすなんて」
「あぁ、この俺が・・・。どうかしていたのだろう」

 どうかしていた、などと言う割には彼の表情は平静だった。

「何を探してるの?」
「着物の帯だ。買って箱から出していないものだが、どこかへ行ってしまってな」
「帯?何で帯なんか・・・まぁいいけど・・・」

 ふっ、と微かに千石が笑った。

「お前の先見の目だけは本当に頼りになるな」
「だけって何、だけって」
「それ以外に何か取り柄があるのか・・・?」
「そこで心底不思議そうな顔しないでよ。傷つくから!」

 皇帝の娘である事以外で、唯一伊織が誇れる才能。
 ――祈祷師顔負けの先見の能力。
 およそ数名の祈祷師、占い師が集まってようやく一級品として扱えるそれを生まれながらにして持っている伊織。口にしたら調子に乗るから誰も言わないが、一応は東国の最終兵器という位置付けになっている。
 とは言っても、彼女は戦に出た事が無いので果たしてそれがどこまで通用するのかは怪しいところだが。

「よーし、久しぶりに占うぞー」
「もっとやる気のある声を出せ。伊織、お前まさか俺の為に働けないと言うのか?」
「言って無いよ?言って無い!どうしてこう・・・そう拗くれ曲がった事を言うのかな・・・」

 婚約者の穿った物の見方に驚愕しつつ、目を閉じて彼が探しているであろう帯なる物を思い浮かべてみる。