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芽依が部屋から出て行ったのも気に掛かったが、一先ず部屋の点検を終える。やはりめぼしいものは無かったし、そもそも異変が起きている家だとは思えない。
「その、心霊スポットってのはどんな所なんだ?そう言われるからには何か理由があるんだろ?」
小さな机の周りに落ち着いて山野に訊いてみれば、彼女はほんの少しだけその目を泳がせた。ああ、立ち入り禁止の場所にでも潜り込んだか。月白に目配せする。一つ頷いた相棒は普段からは想像も出来ない優しげな声でこう促した。
「我々も一度そちらへ足を運んでみたいと思うのですが、場所も情報も訊いておりません・・・。危険な場所だと相応の準備が必要ですので、私にどんな場所なのか教えて下さいませんか?」
「え!?あ、その・・・」
顔を赤くしたり青くしたりと忙しい女子高生を尻目に小さく溜息を吐く。依頼人が歳頃の女の子だと月白が非常に有効だ。彼自身も『異性』の気を惹く能力があるようだし、話がトントン拍子で進んでくれてよろしい事この上無いのにこの虚無感は何なんだ。
なお、男性依頼者相手にも有効な《うろ》がいるので交渉系は彼等彼女等に任せておけば万事解決だ。あれ、これもうおじさんいらないんじゃね?
ともあれ、話したくないような雰囲気を醸し出していた山野美香は先程とは一変、嬉々とした口調で話し始めた。何かの洗脳にでも掛けられたとしか思えない。
「その、学校のみんなは心霊スポットって勝手に呼んでる場所なんですけど、実際は変死体が見つかった少し大きめの家なんです」
「変死体・・・?」
「あ、詳しい事は分からないです。近所の大人の人に聞いたら何か分かるかもしれないんですけど、すいません」
「いいえ、構いませんよ。ところでどんな家なのですか?」
「あ、日本家屋って感じの家で・・・普通の家より大きいけれど、屋敷って言う程でもないような。住宅地から離れた場所に立っていたけれど、もう寂れちゃって埃臭かったなあ」
――いやいや、変死体見つかった場所に肝試しなんか行くな。
言い掛けた言葉を呑み込む。彼女、変な所で肝が据わっているというか、最近の女子高生はよく分からない。何故自ら危険な場所へ行こうとするのか。生き急ぎ過ぎだし、自分だったら不気味でとても近付こうとは思えない。
作り物のように美しい笑みを浮かべた月白と目が合った。まるで人形のようだったが、彼の訴えんとする事は分かる。もうそろそろ、この家から撤退しようと言いたいのだ。
「よーし、分かった。じゃあおじさん達はそっちにも行ってみるから。あ、家にいるのが嫌ならうちの事務所の2階貸すぜ。あそこ、一応は家にいられない依頼人の一時避難所にしてっから」
「あ、はい。でも特に害も無いようなのでもう少し様子見ますね。明日は学校に行かないといけないし・・・」
「あー、そうか。そうだな。じゃ、何かあったら遠慮なく電話していいから」
はい、と素直に頷いた山野美香は最後まで月白の背中を見つめていた。やはり彼、何か特殊な空気でも纏っているのだろうか。場所が違うが見た異性を虜にする『チャーム』とか。