No.001

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 そう決意を固め、自室へ足を向けたその時だった。視界の端で小さな人影がパタパタと走って来る。《異能者》に年齢は関係無いとはいえ、さすがに小さな女の子は彼女以外にあり得ない。

「霧咲のおじさん!」
「おーう、元気か芽依。おじさんはもう疲れちゃったぜ・・・」

 無表情ではあるが小さな子が駆けて来るのを見ると不思議と心が安らぐ。子供がいたらこんななんだろうな、って。いや自分の子供なんていないのだが。
 そんな少女の背後から長身の男が姿を現す。首の後ろを掻きながら大あくび。腹の立つ奴である。

「あれ、アンタら帰ってたんだな。あのさー、もう棚の菓子ねぇぞ。買い足しといてくれよ」
「よく食べるな、君は」

 帰って早々買い出しの話をされて眉間に青筋を立てる。月白はというと同業者の登場に微かな笑みを浮かべていた。

「あのね、おじさん。仕事の話、してもいい?」
「おー、いいぞいいぞー。おじさんぶっちゃけ死ぬ程疲れてるけど芽依ちゃんの話なら聞いちゃうぞー。楽しみだなー」
「ちゃんと録音した」
「寝落ちしそうだな、そりゃ」

 押し付けられる録音機。こんなの子守歌以外の何者でもないのではないだろうか。案の定、月白の心配そうな視線が突き刺さる。口に出さないのは彼の優しさだろうが、会議があった3時間の間、彼はずっと立ちっぱなしである。さすがに代わりに聞いて話まとめといて、と言い出せる雰囲気ではない。
 そもそも、彼女が受けたのは何の依頼だったか。余程難しい依頼じゃない限り、依頼を受ける受けないはメンバー一人一人に委託している。まあ、芽依などの例外もいるが。彼女の場合年齢が年齢なのでさすがに他のメンバーのように丸投げは出来ない。
 「あまりうちの子舐めない方が良いぜ」、とは紅鳶の言葉だったか。まあ、彼女は《協会》産の純粋培養。中途開発者である自分とは出来が違うのでそう言われるのも仕方無いが。

「おじさん?考えごと・・・?」
「ん?ああいや、これって何の依頼だったけな?ちょっと俺、最近予定詰まってて誰に何の仕事出したか記憶が曖昧・・・」
「それはね、ちょっと前に予定がはいっていたやつ。ジョシコーセーが依頼主だった」
「マジかよ、今回の依頼っておじさん両手に花じゃね?やっべ、並んで街歩いたりなんかしたら即通報だわ。世間はくたびれたオッサンに厳しいぜ・・・」

 その女子高生の依頼とやらは何だったか全く思い出せない。自分が会議に出ている間に入った依頼なのかも。ふと、紅鳶が口を挟んだ。

「人間霊っぽかったぜ。話聞いてた限りだったらな」
「お前さ、聞いてたなら俺にあらすじ3行くらいで語ってくれないかね?概要知っとかないと、録音聞いても何が何だか」
「あー?そうだなー。ガッコー帰りに心霊スポット行ったら何かに憑かれて家がお化けの遊園地になったって話じゃなかったっけ?」
「わお。何言ってんのか見事に分かんねーわ」

 芽依はと言えば人間霊が苦手なのは今に始まった話では無いのでそっぽを向いている。そう、彼女は《うろ》より人間の方が怖いのだ。

「僭越ながら私が、紅鳶の台詞を解説致しましょう」
「お前さ、ホンット有能だな」
「光栄です。そうですね、その女子高生とやらが学校の帰りに心霊スポットへ行った所、そこにいた何かの霊を憑けて帰られてしまい、家が幽霊屋敷になった・・・という事で間違いないな?」
「おー、アンタすげぇな。だいたいそんな感じの話してたぜ。ほとんど聞いてなかったけど」
「聞いてなかったんかい!!」

 ああ、大丈夫かな、ウチ。漠然とした不安が脳裏を駆け巡った。