No.001

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 ようやく正気を取り戻したのか、少女は少しだけ恥ずかしそうに俯いて業務連絡のようなものを口にした。あれ、やっぱりここで働いているのか。

「ちょっと・・・わたしだけじゃ、どうしようもなさそうだから、おじ・・・支部長が帰ってくるまで待っててほしい」
「ああ、はい。うんうん、その方が良いよ」
「おじさんは今日の夕方に帰ってくるから。代金は・・・」

 ――それだ。幾ら掛かるのだろう。思っていたより本格的な姿勢が見えるのでまさかぼったくられたりしないだろうな。女の子が話を聞いてくれたのも、自分の警戒心を解く為かもしれない。だとしたら大成功だ。

「たぶん、3千以下でいけそう・・・」
「万!?まさか3千万円!?」
「えっ?いや、普通に3千円。病院といっしょ。保険証とかあればだけど。ないなら十割負担」
「あ、あるよ。さすがに保険証は持ってるよ」

 国民である事と除霊?だか何だかは関係が無さそうに見える。それが何故病院での会計方法を適用しているのか謎だし、たぶん探ってはいけないような気がする。

「何か決まったら連絡する」
「あ、はーい」

 その言葉を皮切りに少女が小さく手を振ったので自然な流れで手を振り返した。にしても、彼女の保護者らしき青年はずーっと菓子を食べているだけだった。いったい何しにここにいたのだろうか。

 ***

 一般人依頼向け窓口、12支部。《異能者連合協会》の上役が考案した英才教育を受けている――協会全体から純粋培養と皮肉られている彼等彼女等ではなく、《異能》を持たない人間が何かの拍子に才能に目覚めたのを中途異能開発者と言う、そんな後者の人生をたどった霧咲真也が切り盛りする支部である。
 基本的に支部周辺の《うろ》、怪異が人的被害を及ぼすまで成長したものを駆逐するのが《協会》の仕事だが12支部は例外である。彼等は個人的な依頼を請け負う。それは野山美香のようなそっち側にまるで知識の無い女子高生だったり、或いは上司に言えない失敗をやらかした協会のメンバーである事もある。
 そんな12支部支部長、霧咲真也は着ていたスーツの上着を肩に掛け、心底疲れ切った顔で12支部の14階まで足を運んでいた。接客に一部屋当てているものの、本来このフロアは泊まり時の仮眠室でもある。そう人員が多い支部ではないので一人一部屋、必要に迫られれば契約済み《うろ》の寝所としても使う。

「今回は長かったですね。さすがに私も疲れました」

 持ちますよ、と上着を奪い取られる。そんな彼の名前は月白。名前から察せる通り《うろ》だし、中級第一位の名に恥じない有能っぷりである。また、《うろ》全体に言える事だが階級が上へ上へ行くにつれて目鼻立ちが整った――そう、真実浮世離れした容姿になる事が多い。一部例外もいるにはいるが、月白もまた例に漏れず。
 何がって彼と並んで歩いていて自分が通報された回数だ、回数。11回。信じられない。同じ理由で芽依と歩いていても通報される。毎回「娘です」、と警察に説明するのももう慣れた。いや、血の繋がりは無いが――

「そーいや、芽依の奴は何か依頼受けてなかったか?いや、会議行く前の話だから記憶が朧気なんだけどよ」
「言っておられましたね。報告を聞いた方がいいのでは?」
「あー、そもそも依頼受けたのいつだっけ?あれ?もう話聞いた、つってた?」
「それは分かりませんね。私ではなく、あの時一緒にいたのは紅殿だったでしょう?」
「あん?それは1週間前の話じゃね?」

 いかん、思考が散らばっている。もう家帰るの面倒臭いし、今日はここに泊まろうそうしよう。