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仕方無いので一応もう一度だけノックして「失礼します」、と一言断りを入れつつドアをそーっと開ける。
「・・・え?」
「あー、来た来た。もう来ないのかと思ったぜ」
「こんにちは。・・・座って?」
視界に入ったのは一言で言えば少女と青年だった。少女の方も本当に少女という感じで明らかに小学生。色素の薄い長髪を腰の辺りまで伸ばしている。控え目に言ってとても可愛い。人形みたいだ。浮世離れした容姿というか、小綺麗な子なんかはこの歳くらいまでどこか現実離れしているように見えるがそんな感じだろうか。儚げな印象。
対して少女の隣に腰掛けている青年はまさにどこにでもいそうな青年だった。赤みがかった茶の短髪は染めているのだろうか。身長が割と高く、人の良さそうな笑みを浮かべていなければ威圧感がありそうだ。一瞬、少女の兄か何かかと勘繰ったがそれにしては共通点がなさ過ぎるので自分でも無いなと思った。
「アンタ、いつまで突っ立ってんの?座れば、って言ってるのにさぁ」
「・・・ああ、え?あの、もしかして部屋を間違えました?」
「まちがってない。あなたの話をきくのは、わたし」
――いや、そっちのお兄さんじゃなくてあなたが聞くの?
耳を疑った。が、もしかしたら少女は青年の従妹とかで事情があって職場に連れ込んでいるのかもしれない。小学生っぽいけど、この際それは無視だ。
高級そうなソファに身体を沈める。思っていたより倍沈んだ。かなり柔らかい。
バスで来た為予定の時間からすでに10分過ぎている。その間にテーブルの上に乗った茶菓子を食べていたのか、青年の足下には煎餅のカスが溢れていた。非常に汚い。対して、少女の机には包み紙が綺麗に畳まれておかれていた。礼儀正しいのは良い事だが、それは客用の茶菓子じゃないのか。もうほとんどカスしか無いんだけど。
このまま無言で見つめ合うだけの時間が過ぎて行くのかと思われたが、少女がポケットから小さなメモ帳を取り出した。
「えっと、わたしは・・・有栖川芽依。こんかいは、あなたさま?の、依頼のお話をききに・・・」
「頑張れ頑張れー。あ、こっちの煎餅いいなぁ、塩効いてて。ほら、半分やるよ」
「邪魔。だまってて、紅鳶」
「ごめんなさい」
必死に見ないふりをしたが駄目だった。少女――有栖川芽依はその小さな手にメモ帳という名のカンペを持っている。正面に座っているのに彼女が膝にそれを乗せて話すので丸見えだった。当然見えないふりをした。
紅鳶――随分と変わった名前で呼ばれた青年はしょんぼりしている。まあその、子供の言う事だからそんなに気にするな、と心中でエールを送ってあげた。
悪戦苦闘している女の子を前に姉のような気分に陥る。このまま放っておいてはいけない、困っているのが手に取るように分かる。
「あーっと、事情を説明すればいいのかな?」
「うん・・・!おねがいします」
話終わったか?と、茶菓子を貪り喰いつつ青年が尋ねる。彼は自重という言葉を知った方が良い、切実に。