No.001

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 怪奇現象――そう一口に言っても漠然とした印象しか無いだろう。けれど今自宅で起きている出来事はそう形容するしかない、何とも名状しがたき状態だった。
 例えば鏡。朝早く、学校へ行く前に顔を洗って歯磨きをして、そして鏡を覗き込む。女の子なら当然だ。学校という緩やかなカースト制度、その中腹でひっそりと生き残る為にも毎日の表情チェックも欠かせない。で、その覗き込んだ鏡、自分の背後を何かが通り過ぎる。何なのかはよく分からない。人影のようでもあったし黒い小さな影のようでもあった。もう何度それを目撃したのかは分からないが、意識して背後に気を配っていてもそれに焦点が合わないのだ。
 ところで、最近トイレのドアの立て付けが悪い。開けたはいいが、勝手に閉じるのだ。それはトイレから出る時で起きる時と起きない時がある。気のせいだという事にした。
 探せばまだまだある。消したはずのテレビが着いていた、変えたばかりの電球がおじゃんになった、張った覚えの無い水が風呂桶に溜まっていた、洗面所に自分のものではない髪の毛が落ちていた――
 信じたくはない、信じたくはないがようやく家の異変について本腰を入れて調べる事にした。学校の友人にその事を話して2日が経っただろうか。話した友人を伝い、そういった『怪奇現象』を解決してくれる所があると教えられた。
 その名も《異能連合協会12支部》。うん、どこの秘密結社だろうか。どことなく胡散臭さを感じさせる名前に不安しか覚えられない。
 けれど悲しい事にほとんど地元と言って差し支えない場所に悠々と聳え立ったビルは希望を打ち砕いた。いやに大きなビルがあるなと思ったら、ここがその12支部とやらか。案外立派で驚きを隠せない。

「すいません、あの・・・昨日電話した山野ですけど・・・」

 こんなビルに入った事が無かったので何故か忍び足で自動ドアを潜り、受付嬢達が待ち構えるホテルのロビーみたいな所を強烈な場違い感を覚えながらかいくぐる。
 彼女達は手慣れたもので淀みのない動きで2人いた受付嬢の片割れが頭を下げた。その間にもう一人がパラパラとファイルを捲る。

「山野美香様で間違い無いですね?」
「あっはい」
「御案内致します、こちらへ」

 ファイルを置いた受付嬢の一人がそう言うと受付から抜け出した。後を着いて来いと言うのだろうか、やはり淀みのない足取りでエレベーターのボタンを押す。
 エレベーターが開くまでの気まずい時間を脳内で羊を数える事でやり過ごし、中へ。あまり使われていないのか新品の匂いがした。そう言えば受付嬢は2人いるが、その他に人の姿を見ていない。こういうビルの類ってもっと人がひしめき合っているようなイメージなのだが。
 14階。エレベーターが止まる。
 受付嬢から外へ出るように促された。その階は部屋がたくさん並んでいる。どれもピッタリとドアを閉じられているが、ロビーとは違いどことなく客を受け入れる体勢が見受けられる。つまり、この階は主に客間なのだ。

「少々お待ち下さい。・・・失礼致します、依頼人をお連れ致しました。入ってもよろしいですか?」

 返事は聞こえなかったがドアを薄く開けた受付嬢は静かに頭を下げた。

「それでは。お帰りの際はそちらのエレベーターを使い、来た所からお戻り下さい」
「あ、はい。あの・・・」
「お話は中で。私達はただの受付嬢です、専門的な知識は一切ありません」

 案外忙しいのだろうか。下の階で電話が鳴る音が聞こえると彼女はそそくさと踵を返して再びエレベーターへと乗り込んで行った。