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「――・・・あ」
更に歩みを進めるとトンネルが見えて来た。随分と長いトンネルだ。終わりが見えないし、真っ暗。生理的嫌悪感すら覚える暗さで足を止めた。
『何かあったの?』
「トンネルが見える。・・・これは」
『うん、入ったら最期、二度と出られないからね!』
これも有名な話だ。目を凝らせば線路の上に人が立っているように見える。危険、危険。脳内で警鐘が鳴り響いた。
『きさらぎ駅』での人影、トンネルは危険だと事前知識でよく知っている。触れずに引き返すのが吉だろう。気持ち音を立てないように踵を返す。
スマートフォンを耳から離し、充電の残量を確認した。
――残り20%以下。
「充電がまずくなってきたから、離脱するよ」
『了解。まだ電話は繋いでおいてね。帰りに何があるか分からないし、符を使って帰れそうだと思ったら切るんだよ』
「うん」
ポケットに畳んで忍ばせておいた異界対策符を取り出し、皺を伸ばして持っていたライターでそれに火を着ける。
符は火の粉を撒き散らしながら手から離れ、頭上へ昇っていった。
これ大丈夫だろうか。火事になったりしないのだろうか。
ハラハラしながら見守っているとやがて燃え尽きた符は微かな風に流されて灰になり、消えて行った。ちゃんと効果は出ているのだろうか。
その直後だった。ゴトンゴトン、と聞き慣れた音が鼓膜を叩いたのは。
乗って来た電車がホームに入っていくのが見える。成る程、あれに乗って元の世界へ帰れという事か。
どうやら上手くいったらしい事に嘆息し、神無は大急ぎでホームへと走っていった。