第4話

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「あ、もしもし。何だかきさらぎ駅に着いたみたい。今から調査してみるけど、この電話はどうする?繋いでおいた方が良いの?」

 わぁ、と天乃がはしゃいだような声を上げた。彼女の明るさはこの場において不釣り合いではあるが、むしろその方が良いのかも知れない。電話口の人間まで暗かったらそれこそ気が滅入ってしまう。

『うん。充電が切れそうになったら言って。まあ、そんなに長い時間異界にいるなんて良くないけどね!活動時間はギリギリ充電が保つくらいかな!その匙加減は神無ちゃんに任せるよ』
「分かった。じゃあ、何かあったら声を掛けるから」
『はいはいーい』

 スマートフォンを片手に持ち、そっと顔を上げる。広がるのは色の無い世界、空気の止まった、異様とも言える空気。背筋にはずっと悪寒が奔っている。今すぐにでも自宅にいるであろう相棒様に助けを求めたくなったが、《うろ》は呼ばないように言われている。それに、その為の異界対策符だ。
 大丈夫、今回は帰れる。帰れる――

「・・・天乃さん?ごめん、何だか眠くなってきた。何か話をしてくれる?」
『眠い?駄目だよ、きさらぎ駅で眠ると本当に二度と帰って来られなくなるよ!だって、眠っちゃったら異界対策符も意味無いからね!』
「ううーん、ちょっと目が覚めて来た・・・いや、きてないわ」

 スマフォから聞こえて来る天乃の声が少しだけ現実に意識を引き戻す。
 奔っていた怖気を感じなくなっている事に気付き、やはりまた僅かに目を醒ます。恐怖を感じなくなったらなったで自身に起きている異変に目を向けてしまい、頭が冴えてきたのだ。

「鈴・・・いや、太鼓の音が聞こえる気がする」
『噂通りだね!いやぁ、高校生の噂話をここまで再現出来てる異界も珍しいよ!だってほら、噂なんて尾びれ背びれがついてずーっと最初の情報のままにはならないわけだし!』

 それもそうだ。疑問にこそ思う暇がなかったが、確かに自分が調べていた情報と見ている光景はほとんど一致している。といっても所詮は口頭で伝えられたもの。噂の真相がそうであるとは限らないが、まさに想像した通りの光景が広がっていれば――いや、それは先入観のせいか?けれど、前回の時はホームから出ていない。
 ホームの外に広がる光景を見つめる。
 片田舎。バスも1時間に何本も通っていないと分かるくらいに寂れた街並み。それはおよそ聞いた噂から推測した『きさらぎ駅』の通りだ。