第4話

2-3


 ***

 あれから本当に具合悪くて、それでも最後まで授業を受けて下校した。当然任務は保留である。こんな状態で駅も何も無い。調査なんて出来る隊長ではなかった。
 天乃にそう告げたところ、早く帰って休めとむしろ怒られた。タクシー代も出そうかと言われたがそこまで負んぶに抱っこ状態では良くないので自分の財布から金は出した。天乃も相乗りするか尋ねたが、今から行く所があるらしい。

「ただいまー・・・」
「んん?早かったな。というか、顔色が悪いぞ。何ぞ、変な物でも食ったか?拾い食いとは行儀の悪い奴だ」
「烏羽は私の事をもしかして野良猫とか野良犬だとか思っているの?・・・まあ、多分風邪引いたから大人しく寝てるよ。起こさないでよね」

 ふと何かが緩やかに飛んで来た。思わずそれを両手でキャッチする。結構な角度で落ちて来たそれは柔らかいものだったようで、手の平の上で少しばかり平べったく形を変えた。何故投げた。
 それはラップに包まれた薄皮の饅頭だった。薄い茶色のそれはどこか手作り感を臭わせる。例えば、夫婦経営している饅頭屋の饅頭みたいな。機械が作っているのではなく、人の手作り感があると言えばそれが正しいだろう。それにしては手慣れたように出来ているので、まあ一番あり得ないが烏羽が作ったわけではなさそうだ。

「幸運娘が朝から持って来たぞ。貴様が出た後だな」
「何の饅頭?・・・私、あんこには煩いんだよね・・・。あんまり食欲も無いんだけど」
「俺はもう要らんぞ。すでに4つ食った。そうさな、舌触りの良いこしあんだったぞ」
「4つ?それって私に2個以上は残しておくよね、普通」
「食いたかったのか?」
「いや別に。せめて一言断ってから多目に食べようよ・・・饅頭だったから良いけど、冷蔵庫の奥に入ってる秘蔵のプリンとかだったら聖戦は避けられなかったよコレ」
「・・・んん・・・?」
「えっ。まさか、私のプリン――」

 食べてない、と叫ぶ烏羽。何か必死なのが怪しすぎる事この上無いが、面倒だし突っ込む気分じゃないので黙殺した。大きな声を上げるから頭が痛む。
 もう一度饅頭に視線を落とした。貰った物を捨てるのは良くないし、こしあんは好きだ。ただ、今はあまり食べたい気分では無い。かといって烏羽はもう要らないみたいだし。
 数秒ほど考えた神無はそっとラップを剥がした。

「あー・・・美味しい。やっぱりこしあんだよね」
「俺は粒あんの方が好きだ。食べているという気になるだろう?」
「この話題は止めよう喧嘩になる」

 古来からこしあんと粒あん、きのことたけのことは争いから切っても切り離せない仲だ。全ての日本人を対立させかねないこの案件には触れない方が良いだろう。
 舌触りの良いあんこ、と烏羽は形容したが成る程それは言い得て妙だった。食欲など無いはずだったがペロッとそれを平らげる。腹にも溜まって、昼あまり入らなかった空腹の腹が一杯になった。

「何か初めて食べるなぁ、この饅頭。近くに饅頭売ってる所なんてあったっけ?」
「俺が知るか」
「そういえば烏羽って、私が学校へ行っている間は何してるの?まさか、ずーっと昼ドラ視てるの?」
「そんな訳あるか。俺は俺でやる事、やらなければならない事がある。人間は気楽でいいよなぁ、神無」
「はぁ・・・」

 どう見ても毎日が休日のオッサンにしか見えない。が、そろそろ本当に休んだ方が良い気がするのでそのまま部屋へと引っ込んだ。病院へ行くのも億劫だし、寝ているだけで何とか風邪を治したいのが本音だ。