2-1
話は冒頭に戻る。時間経過で言うと烏羽と話したのが昨日。任務を開始して1日経ったのが今である。
熱っぽい頭を抱えて目を閉じる。どのみち『きさらぎ駅』に到達しなければならないので意識を車内から引き離す必要があった。今回は異界対策符があるのでまだまだ冷静。帰ろうと思えば帰れるのだ。
――しかし、本当にこれで行けるのだろうか。
調べてみた感じ、誰も行こうとして行ったのではなく、気付いたらいたという認識が正しい。果たして行こう行こうとしている者が本当にそこへ至る事が出来るのだろうか。
「――・・・ちゃん、神無ちゃん!早く起きて、電車出ちゃうよ!?」
肩をちょっとあり得ないくらい揺さ振られて目が覚める。飛び起きれば心配そうな顔をした天乃美琴の顔が飛び込んで来た。その一歩後ろには淡藤が無表情で立っている。
そこは変わらぬ車内だ。勿論、噂の駅でも何でも無く人が行き交っている。
「何か具合悪そうだよ?大丈夫?まあ、取り敢えず降りようか」
「ああうん・・・」
どうやら眠っていたらしい。頭が痛いし、喉も痛い。典型的な風邪の症状が出ている気がする。帰りたくなってきた。
「何か行けなかったみたいだね、『きさらぎ駅』」
「うーん、任期が決まってないからね!気長にやるしかないよ!ほら、とにかく生きて帰って報告書さえ提出しちゃえば終わりなんだから!」
「人を捨て駒みたいに扱って・・・おかしくない?」
ぼんやりした頭で呟く。そんな独り言を拾ったのは淡藤だった。
「人間の考える事は、結構、残酷。私達より・・・機械的で、無機質な、考え方・・・。権力を持てば、持つほど・・・甘い匂いが、すれば・・・する程」
「そうなんだよね。えーっと、華天さんが言ってたけど10年前、今の支部長さん達が改革する前まではもっと酷かったんだって」
「須賀さんの年齢が割れちゃうからあまり言わない方が・・・。でも具体的にはどう酷かったのか興味はある、かも」
須賀華天。リーダーシップに溢れた彼女が『酷い』とそう言うのだから余程酷い環境だったのかもしれない。ただ、10年前って事は彼女の容姿からして――いや、これ以上はいけない。