第4話

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 ゴトン、ゴトン。一定のリズムで聞こえる音と振動。微かな行き交う人の声に少しだけ熱い空気。
 朝、通勤ラッシュに揉まれる電車内では相変わらず人々の営みが行われており、早朝出勤の為か死んだ目の大人、或いは学生達がつり革に、壁に、椅子に座っている。それは土日以外毎日繰り返される謂わば学校へ行くまでの通過儀礼のようなものだった。
 繰り返される毎日の中、電車に乗っている間は本を読むかスマートフォンを弄るという学生らしい態度を取る合崎神無はしかし、今日ばかりは何もせずぼんやりと床を見つめていた。
 ――眠い。非常にとてつもなく、抗えない睡魔と戦っている。
 いつもは煩く話し掛けて来る天乃美琴の姿は無い。そもそも、この任務が終わるまで彼女と登下校する事は恐らく無いだろう。
 今回の任務は『きさらぎ駅』の調査。幸運体質により怪異に巻き込まれない天乃は自分の意志で同行しない方が良いと判断したようだ。朝からそう告げられた時は面倒な事になったな、とうんざりしたものである。なお、烏羽の同行は不可。一応、怪異とは言え場所が場所で異界のようなものなので《うろ》の侵入は原則禁止である。常盤の時はうっかり来てしまったが、今回は来ないように言ってある。それを告げた時の彼の反応をよく思い出せないが、例に漏れず何故か聞き分けが良かったように記憶している。
 そして今度は正式な任務なので『異界対策符』なる小道具が配布されている。何でも、その異界が『何であるか』を理解していれば道具として作用し、元の場所に帰って来られるそうだ。不安しかない。
 しかし慣れなのか何なのか、帰れると分かった時点でさしたる恐怖は感じなかった。一人なのは正直少しだけ不安だが、無理なら無理でさっさと帰ればいい。辞退する権利が、今回ばかりはある。
 帰る為の情報収集。それは前日に遡る。

 ***

 その日はそもそも、少しばかり熱っぽかった。それはガッツリ翌日にまで引き継いでしまったのだが、この時は家に帰って休めば直ぐに治ると思っていた事だけは確かだ。
 次の任務が『きさらぎ駅』調査である事も朝の時点で知っていた上、天乃の勧めで情報収集を始める事となった。当然、異界の知識が無ければ対策符が使えないと任務のメールに記載されていたのでそのつもりではあったが。