第3話

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 空間が揺らぐ。それは比喩でも何でも無く、陽炎をもっと強く表したようなそんな光景だった。ややあって姿を現したのは青年だった。そう――学校の件での首謀者、青朽葉よりやや幼いくらいの。

「ちょっと!どうして同胞がいるんだよ!もー、僕は同胞狩り、嫌いなんだよ!?」

 出て来た青年は開口一番そう言って頬を膨らませた。中性的な目鼻立ちをしており、中肉中背ではあるが発された声は低い。控え目に言っても女性のそれではないだろう。
 そんな異界の主、《うろ》を前にした烏羽は意に介したふうもなく言葉を紡ぐ。前の件はほぼ全て無視する方向らしい。

「ここからコイツを外へ出せ。異論は認めんぞ」
「・・・どちら様?僕、貴方呼んだかな?おかしいな、人の子だけここに招いたはずなんだけど」
「こんなちんちくりんでも契約相手だ。俺と揉めたくなければそこを退け」

 むっとした顔の《うろ》はその幼い仕草とは裏腹に強い口調で烏羽の要求を突っぱねた。

「嫌だよ。僕はその人間に用事があるんだ」
「私はあなたの事なんて知らないんだけど」
「いいや、知っているはずだよ」

 こんな特徴的な、しかも誰も突っ込む者がいないから放置されているがどう見たって顕現を果たしている《うろ》なんかに出会ったら忘れられないはずだ。
 話が見えんな、と相棒は微かに溜息を吐いた。それは嘲りであり、いい加減問答が面倒になってきた事を如実に示している。

「僕は相方の敵を取らなきゃいけないんだよ!だってほら、そこの人間はあの――えーっと、人の子が集まってる場所での事件に関わってるでしょ?」
「えっと、ほぼ無実どころか後輩を失った上戦闘には一切関与してない私の事を言ってる・・・?」
「関係無し!」

 いや関係あるだろ。言っちゃ悪いけど、あの青朽葉を殲滅したのは間違い無く須賀華天だし、自分は逃げていただけだ。青朽葉なる《うろ》に危害を加えた覚えは無い。助けは呼ばなくても来ただろう、何せ場所が場所だ。
 故に、合崎神無はただの被害者だと結論が出たのだが何か間違っているだろうか。いや間違っていない。私は被害者だ。

「ふむ。俺に用があって回りくどい事をしたのかと思ったが・・・ククッ、まさか、貴様に用があったとは!」
「笑い事じゃないよ、烏羽。というか、だったらこの《うろ》に会わなくても外に出してくれて良かったんじゃ・・・!?」
「ああ、そうだな」

 こいつは絶対に許さない。