第3話

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 が、一人が二人になると同行者が誰であれ心強くなるのは本当だ。現に、今はちっとも恐怖を感じていない。先行きの見えない不安ならば強く心中に残っているがどうも烏羽も手伝ってくれるようなので何とかなるんじゃないか、と楽観視している節もある。
 一歩前を歩く《うろ》は何やら愉しげだ。しかしそれが純粋な理由を伴っているかと言われればそうではないような。

「空気感が嫌だなぁ・・・」
「異界なぞ、どこもこんなものだぞ」

 独り言に的確な答えが寄越される。歩くだけが暇なのは烏羽も変わらないらしい。思い切って会話を繋げてみる。繋いでいるのは会話だけではないが。まさに、合崎神無にとっての命綱なのだから。

「烏羽も創るならこんな感じの異界になるの?」
「創るまでもなく、俺はもう持っているからな。創る、と言うより引き寄せるが正しい。というか、こんな適当な創りの異界など俺は認めん」
「はぁ・・・」
「趣が足りないな」
「趣って言葉、知ってたんだ」

 舌打ちを返された。いやだって、いつも休日のおっさんみたいにテレビ観ながらソファに転がっているのを見ると正直、趣も何もあったもんじゃない。
 そんな自分の空気を感じ取ったのか、前を歩く相棒が首ごと動かしてこちらを見る。

「ふん。俺の――そうだな、敢えて貴様ら人間に合わせて言えば故郷、か。あれは本当に美しいぞ。こんなアスファルトジャングルと一緒にするな」
「いや、具体的にどう美しいのか聞かないと比較出来ないんだけど」
「いつか来てみるといい。口が裂けてもこの未完成品を異界とは呼べまいよ」

 ――行きませんけど。
 言い掛けた言葉を寸前で呑み込む。変な事を言ってムキにさせたくなかったし、何だかこれ以上この話題を広げてはいけないと脳が警鐘を鳴らしている。

「ここが目的地か。今回は学校の件に比べて温い冒険だったな?」
「・・・見てたの?前の学校の時」
「ああ。あの時には貴様が死のうが二度と出て来られなくなろうがどうでも良かったからな。物見遊山ついでに顔を出す事も考えたが・・・直前の無礼な言葉、忘れたわけではないだろう?」

 色々意味深に聞こえてくる言葉に背筋が凍る。これ、予想以上に前回の件で何か心境に変化があったとしか思えない。それが吉と出るか凶と出るか。計る術を、神無は持たないのだ。
 グルグルと思考しているうちに、駅へたどり着く交差点の真ん中で相棒が声を張り上げる。

「出て来い。まさか、俺を前にして姿を隠し通すつもりか?不敬な」

 あなたは不遜だ。やはり言葉は呑み込んだ。