第3話

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 それを聞いた合崎神無の反応は実に簡潔だった。

「・・・え。いやでも、烏羽は私をここから逃がしてくれる事は出来るんだよね?それってただあなたのプライドの話をしてるよね?」
「ああ。何故この俺が雑魚相手に尻尾を巻いて逃げ出さなければならないのか。それこそ聞きたいものだ」

 ――じゃあ出られないじゃないか。どうやってこの異界の《うろ》を斃せと言うんだ。
 異界と《うろ》。2つの単語を聞いて真っ先に思い出すのはついこの間起こったばかりの学校事件だ。あの時に会った《うろ》と同等の力を持ったそれに会って、逃がして下さいなんて果たして頼み込めるのだろうか。運が悪ければ鉢合わせした瞬間、八つ裂きにされるんじゃないだろうか。

「ふっふっふ、まあそう落ち込むな。俺に良い考えがある」
「・・・あまり期待してないけどまあ、言うだけ言ってみて」
「貴様時々驚く程腹立つな。・・・まあいい。3日程前の話だ。俺がベランダに出ていると、幸運の小娘とばったり鉢合わせしたのだが」
「天乃さんの幸運も不幸を運ぶ鳥には敵わなかったんだね・・・」
「さっきから喧嘩を売っているのか?で、だ。契約関係のあれこれについて長々と説教されたわけだが――奴の話は要領を得ん。俺が理解出来たのは「とにかく契約した相棒とはもっとマイルドな関係なんだよ!」だけだ。どうやら俺には棘が多いらしいな?」
「声真似ちっとも似てなくてテンション下がってきた・・・。そうだね。天乃さんとか比叡くんとか見てると、私達には歩み寄りが足りないとは思うよ。あとあなたの話も相当長いよね。簡潔にまとめてくれる?」

 ふふふ、と明らかに何か企んでいるような顔をする烏羽。テンションただ下がりである。さげぽよ。
 それにしても天乃美琴の肝の据わりっぷりには毎回驚きを通り越して驚愕させられる。命を大事にしろ、とか何とか説教してきた人間と同一人物だとは思えない無謀さだ。
 人差し指を立てた烏羽は最高に悪そうな笑みを浮かべて『提案』する。

「貴様、ちょっと俺に今から異界の主を討伐しに行く旨を命令調で言ってみろ?」
「あーっと、それは私がそう言ったら逆上して襲い掛かって来たりしない?血判とか押して貰っていい?」
「構わん。うむ、たまには上から物を言われるのも新鮮で良いだろうよ」
「・・・たまには?」
「俺の上には父上殿がいる」

 家族構成とかあるのか、《うろ》に。が、傲慢にして高慢な彼にも目上を意味する《うろ》がいるとは驚きだ。もっと謙虚に振る舞えないものか。
 しかし歩み寄りの姿勢そのものは進歩に値する。と言っても、自分は何も努力した記憶が無いし、出来うる限り日常生活から切り離して扱っていたので突然の方針転換に困惑しか覚えないが。
 提案そのものに悪い条件は無い。むしろ、今日はとてつもなく相棒が協力的だ。いっそ不気味な程に。今の状況を利用しない手は無いだろう。

「・・・えーっと、じゃあ、《うろ》を斃しに行くぞー!」
「・・・うん?それはあれか、宣誓か何かか?」
「あれ違う!?・・・あっ。そうだ、私、部活とか入った事無いしクラスにしか友達いないから後輩とかいた事無い・・・しかも一人っ子だ・・・!」
「ああ、もういい。人間界の悲しみはもう知りたくない・・・」
「さ、さげぽよ・・・!」

 人外に哀れみの目を向けられた。