第3話

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 どうしようどうしよう、どうしよう。
 取り留めのない思考。そうだ、『きさらぎ駅』に迷い混んだ時に似ていると思う。《うろ》と相対した時は冷静に思考出来るのに、恐らくは遺伝子単位で刷り込まれた『人間にとって怖い』対象に関しては冷静な思考が飛ぶ。今も具体的にどうすればいいのかまったく浮かんでこない。
 ある種の金縛り状態を解いたのはスマートフォンの着信音だった。ハッと我に返り、即耳に当てる。

「あっ、もしもし!?た、助けて何かが追い掛けて来る――」
「いきなり電話を切るな!!生きた心地がしないのはこちらだ!それで、無事なのか!?」
「・・・ん?」

 背後の視線についても飛んだ。それくらい噛み合っていない会話。というかそもそも、自分は電話を掛けてきたのは烏羽だと思ったのだがどうもそれすら違うらしい。
 そしてそれは電話の向こう側にいるであろう『誰か』も明確に感じ取ったらしい。電話しているにも関わらず気まずい沈黙が落ちる。それを打ち破ったのは電話の向こう側にいる人物だった。

「・・・おい、下らない茶番をやっている暇は無いんだ。俺が電話を掛けるまでの間何があったのかを簡潔に説明しろ」
「・・・えっとあの、すいません。烏羽・・・じゃないんですよ、ね?」
「何、烏羽?止めろそいつの話は聞きたくない。気でも触れたか?」

 駄目だ、話がまったく噛み合っていない。烏羽の話が通じて一瞬、須賀華天かと思ったがそもそも彼女は女性だ。電話の声はどう良心的に解釈したって男声である。こんな野太い声の女性なんて存在しないし、いたとしてもそれは須賀ではない。
 向こうの人物も何やら焦っているようで、逆に失っていた冷静さを取り戻す。

「すいません、掛け間違いでは・・・?」
「・・・誰だ貴様は」
「えっと、合崎・・・合崎、神無です」
「・・・掛け間違えたようだ。すまない、手間を掛けた」
「ああいえ。じゃあ・・・」

 自然な流れで電話が切れる。何だかよく解らないが、一応電波は通って――

「あれ・・・。そういえば、非通知からは掛からないように設定してたのに・・・」

 そうだ。だから掛かって来た電話は必ず自分の知り合いだと思ったのだ。
 冷静さが裸足で逃げ出した。