第3話

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 駅への道を歩きながら嘆息する。
 烏羽の不気味な行動はともかく、こんなんで本当に1年間無事に過ごせるのだろうか。どうやら1年が新人の生死の境目らしいが、とてもじゃないけど1年生きられる気がしない。天乃はあの体質のおかげである程度平気だろうが、こちらはむしろ不運である方が圧倒的に多いわけだし。
 ううん、と考えながら歩いていた。故に気付くのが一瞬遅れたのかもしれない。
 踏み出した足が何か柔らかい物を踏んだ、ような気がした。

「うわっ・・・まさか犬のフンとかじゃ・・・」

 思わず立ち止まって下を向く。しかし、そこには無機質なアスファルトが広がるのみだった。
 おかしい。確かに何か踏んだと思ったのだが。
 いや、そんな事をしている場合じゃない。電車一本逃すと学校へ着くのがギリギリになる。そういう慌ただしい朝は嫌いなのだ。

 ***

「・・・駅、遠くない?」

 誰もいない空間に向かって呟く。
 自分が住んでいるマンションから駅までおよそ10分。のろのろ歩いていたとしても、15分程度で着く距離だ。が、もう体感時間的には30分以上、駅を目指して歩いている気がする。
 確信を持ったのは2回目の交差点に差し掛かった時だった。
 駅までにある交差点は1個。

「えぇ、あれ・・・どうしよう、これ」

 把握する。これ、また異界だとかいう焦臭い空間に飛ばされたんじゃないかと。
 そういえばさっきから人とまったくすれ違わない。田舎ならばともかく、通勤ラッシュ時に駅へ向かう人間が自分一人だなんてそんな馬鹿な。
 舌打ちしたい衝動に駆られつつ、スマートフォンを取り出した。電波は1本だけ立っている。中途半端な。
 冷静な頭の内を探りつつ、誰に電話を掛けた方が効率が良いか思案する。天乃美琴が一番に思いうかんだが、彼女は確か今は任務中だ。真面目に取り組んでいれば着信に気付かない可能性が高い。なら、電話一本で助けてくれる可能性が高い須賀華天に電話するのが一番だろう。
 電話番号を選択し、スマートフォンを耳に押し当てた。着信音がもどかしい。