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学校事件の顛末。
本当に騒ぎにならなかった。そりゃ、近所のおばさんや直接学校に関係の無いご近所さんなんかはヒソヒソと噂話を楽しんでいたようだが、その学校に子供を通わせている親御さん達は不気味なくらいに静かだった。何か洗脳でもされているとしか思えないが、触れると消されそうな気さえするので気付かないふりが一番だろう。
しいて変わった事を挙げるならばたった1つ。
「今日もその学校とやらへ行くのか?人間とは本当に面倒だな。オイ、サボるぞ。暇だ」
「知らないよ・・・。昼ドラでも観てればいいんじゃない?」
「同行してやってもいいぞ?ん?どうだ?」
「学校はあなたの遊び場じゃないんだけど」
――やけに烏羽が着いて来たがる。それはもう、懐いて来た犬みたいに、とにかくどこへでも着いて来ようとする。
学校の一件が落ち着いてから1週間と半分が経ったが、事件翌日の彼の変貌振りには驚きを通り越して気分すら悪くなった程だ。今度は何を企んでいるのだろう。
中間制服を身に纏い、学生鞄を手に取る。今日は天乃美琴も朝から何の予定も無いと言っていたので、たぶん一緒に登校する事になるだろう。烏羽の出る幕は無いし、奴は学校へ着いてくるとひっきりなしに話し掛けてきて鬱陶しい。他の生徒には見えていないのだと自覚して欲しい。
「神無ちゃん神無ちゃん!!」
インターホンを介さずドンドンとドアを叩く音で目も醒めれば頭は冷める。近所迷惑常習犯である彼女は今日も今日とてその幸運のお陰でクレームを免れているようだった。
玄関のドアを開ける。
――私服の天乃美琴が立っていた。
「ごめんね神無ちゃん!いきなり任務入っちゃった!今日は学校休むよ、あとは頑張ってね!じゃ!」
「おはよーう・・・じゃあ、ね・・・」
控えていた淡藤は発言すらする間も無く、出会いと別れの挨拶を同時にしたと思えば天乃に引き摺られて視界から消えて行った。慌ただしい事この上無い。
「ほーう。だそうだぞ?さぁ、俺を連れて行け!」
「いやいいっす・・・」
学校の件以来、肝が据わり始めた自分は烏羽のにやけ顔を一蹴し、そのまま家を出た。