第2話

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 あのね、と更に話を続けようとする天乃に内心ウンザリした気分になってくる。これ以上暗い話題は聞きたくない。というか、これ以上悪い報せがあったら塞ぎ込んでしまいそうだ。しかし耳を傾けないわけにはいかず、黙って言葉の続きを待つ。

「中途異能開発者――まあ、あたし達みたいに何かの切っ掛けとかで《異能》に目覚めた子の1年以上生き残る確率は20%くらいらしいんだ。およそ、だけどね。泰虎くんは確か2年くらいは《協会》にいたから、20%の方だったんだよ」
「・・・じゃあ私はまだ死んじゃう80%の方に分類されてるわけなんだね?」
「うん。そうなんだけど・・・その、さすがにクラスメイトがメンバーになったのはあたしも初めてなんだ!」

 それで、と彼女は照れたようにはにかんだ笑みを浮かべるとそれを隠すように、少しだけ下を向いた。ああ、そう言えば成り行きとはいえ彼女が俯いているのも結構珍しい光景だ。

「こんな命綱無しで綱渡りしてる状態の神無ちゃんにプレッシャーかけるみたいだけど・・・その、長生きしようね。お互いに。だから何かあったらあたしに頼って欲しい。ほら!実力なんて底辺をさ迷ってるあたしだけど、運だけは良いから!厄除けのお守り扱いで全然構わないから!ね!」

 比叡の時は随分冷めた反応だと思っていたが、表に出さないだけでかなりショックだったらしい。かく言う自分はあの光景に衝撃を受けただけで、その人物がどうなろうと心の底ではどうでもいいと思っていた可能性が有る。結局、他人どころか自分が本当は何を考えているのかもよく分からないのだが。

「・・・うん、分かった。頼る」
「そうこなくちゃね!」

 言葉とは裏腹に、ガッツポーズを取って何が嬉しいのか笑みを浮かべているクラスメイトの天乃さんに何かを頼る気には到底なれなかった。登下校、互いに利益があるその瞬間ならばともかく、それ以外の私生活に彼女を介入させるのは如何なものか。
 しかしそれもどうなのだろう。彼女が頼れと言うのに、聞き流してしまうのは――
 緩やかに思考の海へと沈んでいた意識が、隣の部屋から聞こえた戸の開く音で浮上する。

「来る・・・!」

 淡藤の言葉にハッとして立ち上がったその時だった。何の前触れも無く、登校して来た生徒が教室へ入ってくるような気安さで自分達が滞在していた部屋の戸が開け放たれる。
 くすんだ黄緑色の短髪に金色の瞳。緩やかに持ち上げられた口角と淡い色が相俟って良い所のお坊ちゃまみたいな、どことなく優雅さを漂わせる――見ず知らずの他人。着ている服からして当然教師ではないし、何より胸を締め付ける圧迫感が比叡達と一緒に出会ったあの《うろ》と酷似している。
 唐突な事態の進展に誰もが動けないでいると、その男は上品な仕草で緩く手を挙げた。

「やぁ、捜していたんだ。どうしてだか知らないけれど、上手く探知出来なくてね。ああでも、一カ所に固まってくれて良かったよ。どうも僕の連れは要領が悪くてね。獲物を譲るのは気にくわないが仕方無いだろう?」
「元凶」

 短く言い切った淡藤の言葉で全身の血の気が引くのが分かった。