第2話

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 天乃美琴とその相棒、淡藤を発見したのは幸運な事に捜し始めてすぐだった。恐らく本当に幸運なのは天乃の方なのだろうが、今回ばかりは彼女の体質に感謝せざるを得ない。彼女と出会えたという事は自分はまだ一人で死ぬ定めではない、というわけだからだ。
 しかし今は早く比叡泰虎を救援しに行くべきだろう。

「あ、天乃さん!」
「どうしたの神無ちゃん。そんなに慌てて!あ、もう大丈夫だよ!あたし達がいるからね――」
「いやそうじゃなくて!」

 事の経緯を説明する。
 話を聞き終えた天乃は神妙な顔でうんうん、と頷いた。

「助けに行こう!まだ間に合うかもしれないし、泰虎くんは身軽だから上手く逃げてるかもしれないね!」

 道案内を頼まれた。無我夢中で走って来たので戻れるか不安だったが、案外記憶しているもので止まること無く来た道を引き返す。人間の身体とは存外よく出来ているものだ。
 ――結果的に言えば。
 圧倒的に手遅れだった。天乃の逃げている説を推したかったが、それすら絶望的。広がる光景は自分が逃げた後の出来事を何よりも雄弁に物語っていた。

「ううっ・・・」
「大丈夫、神無ちゃん・・・」

 口元を押さえる。胃の中がひっくり返りそうな感覚、平衡感覚すらまともに感じ取る事が出来ない。
 蹲った状態のまま、そっと視線を上げて見る。
 血溜まり。その中心にポツンと落ちているのは胴が行方不明になった比叡泰虎の頭だった。虚ろに開かれた目と目が合い、息が止まる。本当に止まっているのは彼の息の方だろうが。黄丹の姿は見当たらない。天乃によると術者が死亡したので強制送還させられたか、或いは黄丹が倒れたから比叡が死亡したのかは定かではないが。

「冷静、だね」
「仲間が死んじゃったの、初めてじゃないんだ。神無ちゃんや泰虎くんが来る前にだって、あたしと同じくらいの歳の子は結構いたんだよ?」

 その中で当然のように生き残る、その幸運こそが彼女の彼女たる由縁だ。羨ましいと同時、僅かな恐怖さえ覚える。

「立てる?早くここから離れないと。たぶん、霊力豊富な泰虎くんやそうじゃないとは思いたいけど、黄丹くんを喰らって確実に1体は《うろ》が顕現していると思う」
「そうだとしたら・・・」
「うん。手に負えないどころか、出会ったらその時点で即八つ裂きにされちゃうよ。淡藤でも歯が立たないと思う」

 立たない、と淡藤は頷いてそう言い切った。

「そもそも・・・術者、の・・・」
「あーあー、その先はあたしが話すよ!えっとね、あたし達が契約して喚んだ《うろ》の力は完全じゃないんだ。そもそも人間より霊力も力も強い《うろ》をそれより格下のあたし達が喚び出すと勝手に制御が掛かる仕組みになってるんだよ!」
「また何か事件でもあったの?」
「ううん・・・。主従逆転とか、昔は色々あったみたいだよ。で、それを防止する意味も込めて多少の制御術式と、あとは人間側の技量がどうしても足りないから普通に力を蓄えて《うろ》が自分の力で顕現するよりあたし達が喚びだした方が劣化しちゃうんだ。あとは五行?とかいう何か小難しい相関図がどうのってのもあるよ!」

 つまり、元々戦闘に向かない淡藤が自力で顕現した《うろ》に敵わないのは必然である、という事実だけは確認出来た。相関図の話はどう考えたって一般人には縁遠いもののようなので詳しくは聞かないでおく。