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教室は3階にあった。高校にエレベーターなどという便利機器は無いので焦って階段を下りる、下り続ける。
――おかしい。一向に1階へ着かない。どころか、下りている感じがしない。ずっと上下行ったり来たりしているような感覚。
息が上がってきて足を止める。自分の体力の無さは知っていたが、まさか3階から1階へ下りるだけで息が上がるはずもない。つまり、通常より倍以上の運動をしている証拠である。
仕方無いのでどう見ても1階ではないフロアで階段から離れる。この階段が駄目でも、別の階段から下りれば1階へたどり着くかもしれないと考えたのだ。
「うわ、うわ!?」
長い廊下へ差し掛かったところで数体の《うろ》を発見。しかし、先程見た限りなく人型に近いそれとは違い、ただのもやみたいな連中だ。しかも徘徊しているだけにしか見えない。
息を整える。
走り抜けられるかもしれないし、最悪、須賀華天に渡された『守護符』なる簡易撃退グッズも持っている。ので、脇を走り抜けて反対の棟の階段を下りる。それが一番だろう。
――よし、行くぞ・・・行くぞ・・・。
華麗にスタートダッシュを決めようとした。したが、その瞬間に《うろ》の1体と目が合った。上げかけた悲鳴を喉に押し込む。一瞬だけ烏羽を呼ぶ事を考えたが考えは考えのままにしておく。ここで呼んでは元の木阿弥。飽きたと言って烏羽がもし主人である自分に襲い掛かって来ようものならそれこそ人生が終わる。
寄って来た《うろ》に守護符を突き付けた。ザザザッ、というノイズのような音と共に《うろ》が離れて行く。効いているのか効いていないのか微妙なところだが、遠巻きにされているのが分かって足に力を込めた。
***
どこまで走っただろうか。気付けば《うろ》の姿は見えなくなっていた。ふと、窓から外を見る。
「いやいや・・・これ何事よ・・・」
その光景に目を剥いた。
校庭までは普通の光景だったのだが、その先。完全に外界と断絶されたようにブラックアウトしており、校庭まで逃げ果せた生徒達が立ち往生している。外の様子が一切分からないし、何より一般人である生徒でさえその光景が見えているようだ。
――と、そこまで考察してある事実に気付いた。
ここは学校なのだから、夜宮言も校舎にいるのではないだろうか。須賀華天と並んで親しげに会話出来るような仲だし、まさかこの事態を前に逃げ出す事は無いだろう。
どうも外には出られないようだし、夜宮言か天乃美琴を捜した方が良い。
そう思い直して来た道を戻ろうと振り返ったその時だった。視界の端に人影が踊った。