第2話

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 次に起きたのはクラス中の人間が外へ逃げ出す、という事態だった。そりゃそうだ、学校から速やかに避難しろという旨のアナウンスは入らないし、だとしたらさっさと学校から逃げる方が賢明である。
 自分も外へ逃げてしまっていいものか。というか、外も危険なんじゃないだろうか。結局どこへ行っても《うろ》に襲われる結末が見えて胃の辺りが痛い。

「・・・ちゃん、神無ちゃん!ボーッとしてちゃ駄目だよ、逃げようよ!」
「え?ああ・・・いいの、逃げて?」

 天乃美琴が気付けば傍にいた。遠くには彼女を友人だと慕う数名の女子がこちらを見ている。早くしろとでも言いたげだ。そんな奴は放っておいて逃げようよ、そう表情が如実に物語っている。
 ともあれ、神無の問いに対し天乃は力強く頷いた。

「新人は逃げるの優先だって、華天さんが。だってそれに今日は烏羽いないんでしょ?丸腰だよ、神無ちゃん」
「分かった、じゃあ逃げる。後はよろしく!」
「即決!?そこはもうちょっと惜しもうよ!!まぁ・・・私以外にももう一人メンバーいるし、合流して対策練るよ。あと、あの子達も外に逃がしてあげなきゃ・・・」

 彼女がちゃんと仕事をしている事にも驚いたが、あの粘着質そうな女子集団を撒けるのだろうか。心配である。

「いい?もう学校からさっさと撤退するんだよ。運が良ければ《うろ》にも遭わず家に帰れると思うし・・・まあ、何かあったら烏羽呼ぶのが一番じゃないかな」
「善処する・・・呼ばないでいいのが一番なんだけどね」
「そうだね。雑魚《うろ》が学校に集まって来るかもしれないから、急いで」

 頑張って、と形だけの激励を飛ばし身を翻す。一目散に下駄箱へ。さすがにシューズで帰るのはちょっと。
 が、当然この時は今後恐ろしい展開が待ち受けているなど露にも思っていなかった。今まで戦ってきた《うろ》は天乃の言う『雑魚』であった事、今は烏羽がいない事。それがどういう意味を持つのかちっとも理解出来ていなかったのだ。
 そもそも、《うろ》がそれを見えていない人間を襲える状況にあるのだ、とそれさえ頭からすっぽ抜けていたのはもう間抜けだとしか言いようがない。