第2話

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 学校に到着し、天乃美琴と同じ教室だが別れを告げ、自分の席へ。よくある学校内カースト制度に則ると自分と天乃は縁が無いタイプであり、《協会員》という繋がりが無ければただの他人なのだ。そして、その繋がりはクラスメイト達に見えるものではない。よって、教室へ着けば自然と解散してしまう。
 読みかけの本があるし、何だかんだで明後日には図書室へ返却だ。司書の先生とは仲良しだが、自分が読みかけの本を返した事は無い。体長を心配されそうなので今日中に読んで、明日には返してしまおう。
 微かな鼻歌さえ歌いつつ、栞を挟んだページを開く――
 瞬間、絹を裂いたような甲高い悲鳴が鼓膜を打った。一瞬だけ教室内が静まり返り、次の瞬間にはざわざわと生徒達が騒ぎ始める。

「え、何今の・・・?何かしてるの?遊んでるだけ・・・?」
「でもヤバそうじゃなかった?遊んでるっぽくなくない?いや、ガチで」

 ひそひそと交わされる会話。高校生なのだ。廊下で巫山戯ていて大きな声を出す事だってある、多分。けれどそんな遊びの混じった悲鳴ではなかったように思えるのだ。それは誰もが思っている事であり、しかし学校でまさか不審者やら別の何かが起きたかもしれないと、誰もが信じられないでいる。
 数拍の間を置いて、クラスのお調子者と名高い山本くんが廊下へ出る。そして、顔を真っ青にした。

「だ、大丈夫か・・・?え?何だこれ・・・」

 弾かれたように天乃美琴が自らのグループから離れ、様子を見に小走りした。そして、小さく悲鳴を上げる。
 さすがは高校生。野次馬根性はそんじょそこらの人と比べものにならない。
 クラスの仕切り屋である2名が相次いで同じ反応を示した事で全員が全員、廊下を覗き込む。勿論、神無も騒ぎに乗じて何が起きたのか、とのこのこ窓から顔を出した。

「うわ・・・」

 くらり、眩暈。
 まず目に入ったのは黒い学ラン。男子生徒が床に突っ伏していた。そして、そこを中心に赤い水溜まりが広がっている。その傍らに佇む、限りなく人の形をしつつある、黒いもやは――
 脳内ですぐに理解する。他の生徒にその姿が見えているのかは定かではないが、このもやは《うろ》で、男子生徒に危害を加えたのもコイツであると。
 今からどうするべきか。それの答えを見つける前に、火が広がるような勢いでパニックが起きた。まずは自分の教室、男子生徒が倒れている辺りの教室。わあわあ、と統率に欠けた悲鳴が上がっている。
 どうしたものか。幾分冷静な頭で天乃を盗み見るも、彼女もまた同グループの女子達と共に恐がる役に専念するので忙しそうだった。白々し過ぎる。