第2話

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 ピンポーン。
 玄関のチャイムが鳴った。「はーい」、と学生鞄を引っ掴んで玄関へ慌ただしく走って行く。この時間だ、間違い無く天乃美琴だろう。今日は運が良かった。6時くらいに家に来られた時はどうしようかと思ったが、今日はまだ7時半だ。

「おはよーう、神無ちゃん!じゃあ今日も張り切って学校行こうか!」
「朝からテンション高いね・・・。あ、今日は帰りどうなってるの?烏羽があの通りだからあまり一人で帰りたく無いんだけど・・・」
「そうなの?任せて!一緒に帰ろうよ、神無ちゃん!」
「貴様等まだ出掛けてもいないのに、もう帰る事を考えているのか?度し難い・・・」

 テレビに意識を向けていたはずの烏羽が呆れたように呟いた。が、黙殺。そんなにテレビを観たいなら今日はずっと観ていればいい。どうせ明日には「もうアレを観るのは飽いた」、などと言い出すに決まっている。

「幸運体質、便利だね。私も欲しかったよ」

 制靴を履きながらポツリと呟く。そう、自分と同じく相棒に任務面を任せ、自分はその相棒の顕現に全意識を傾けているタイプの《異能者》――契約適性のタイプは基本、主人である自分自身は無力だ。天乃の話によると、契約適性は基本能力の一つで人間自身が戦えなくとも持っていて損は無い、らしいが。
 しかし一つだけ問題がある。そもそも《異能者》なる人間は他の人間と比べて保有している霊力の桁が違う。そう、桁単位で違う。自分は普通だと思っていた神無も例に漏れずで、こんな役に立たない能力を持っているが故に主人無しで顕現しようと目論む《うろ》にとっては恰好の標的。

「そうだねぇ。神無ちゃん、今のままじゃおちおち外も出歩けないもんね。華天さんに相談してみれば?」
「相棒と仲良くしなさい、って言われたよ。無理・・・」
「うーん、堅物っぽいもんね。でもほら、あたしと一緒にいればトラブルには遭わないよ?ね?」
「限界があるよ・・・だっていつも一緒にいるわけじゃないんだし・・・。やっぱり、烏羽と打ち解けた方がいいのかな」

 異能中の異能、《幸運体質》。話によると《協会》内でもこの能力を持っているのは天乃美琴のみらしい。非常に希有にして便利な能力なのだが、具体的な効能はと言うとそのまま文字通りだ。
 彼女にとっての不運は起こらない。彼女そのものが金の招き猫より万能なお守りであり、彼女の前では不幸は全て彼女自身の幸福への布石である。
 数日の間で思い知ったが、《協会》の任務その8割は人体に危険が及ぶものだ。しかし、彼女が怪我をしたのは見た事が無いし、何より契約適性にまで影響を及ぼしている。天乃と淡藤の相性が良いのも然り。
 そして何より――天乃美琴が一緒にいる時の、野良《うろ》遭遇率は今の所0%を保っている。考えようによっては烏羽と一緒にいるより安全だ。

「神無ちゃん?おーい、ちょいちょい別世界へ行くの止めてよ。悲しいなぁ」
「ああ、ごめんね。ところで天乃さん、切符買ってないよ」
「あぁっ!?ほ、ホントだ・・・!!」