第2話

1-1


 朝、登校前。
 それとなくテレビの前に陣取っている烏羽の様子を伺って――否、観察してみる。彼はだいたいこっちが見ていても関係無く自分のやりたい事をやるし、自分もそうずっと相方を眺めているわけではないので何も言われた事は無い。
 ――さて、この奇妙な共同生活を始めて一週間が経った。烏羽が来たすぐ翌日に任務メールが来た件については今でも驚いているが、今ではそれも良い思い出だ。一週間しか経ってないけど。
 一週間で分かった事と言えばもしかするとこの《うろ》烏羽はちょっと規格外の存在なのではないか、という事だ。最初の一件からもうすでに2件の任務をこなしたがその全てを彼は片手間で片付けてしまった。

「おい、小娘。貴様自分の食い物だけ用意するとは良い度胸だな」
「今トースト焼いてるよ。あと2分待って。せっかちだなぁ・・・」
「俺を差し置いて先に朝食をとるか。人間風情が偉くなったものだな?」
「ああ、はいはい。次から気を付けまーす」

 焼いたトーストにバターを塗り、蜂蜜を掛ける。
 こんな亭主関白じみた言葉ばかり使う奴だが、実は頼られるのが好きな世話焼きの一面をも持っていたりして中々侮れない。案外熱い性分なのだろうか。割と感情的な側面を持っていると思われる。

「小娘、今日はあの幸運のは来るのか?」
「え?天乃さん?いやどうかな・・・あの人、家出る時間まちまちだから合わせてられないし」

 天乃美琴とは学校が同じなので一緒に登校する――というか、そう提案を持ち掛けて来たのは彼女なのだが、如何せん彼女の生活態度はころころ変わり過ぎる。早起きして朝一番で出たかと思えば寝坊して遅刻しかける事もある。
 そんなわけで時間が合った時は一緒に登校するようにしているがそうでなければ謹んでお断りしている状態だ。
 ――が、どうして烏羽がそれを気にするのだろうか。
 何か深い意味でもあるのか、と相棒の振り返ったご尊顔を見やれば「あー」、などという気の抜けた返事。

「もう飽きてきたぞ。毎日毎日同じ道ばかり通って。馬鹿馬鹿しくならないのか?」

 成る程。天乃がいない時は学校まで烏羽に同行を願う事にしている。というのも、須賀華天の言う通り自分は野良の《うろ》にとって最優良物件らしく、高確率で薄暗い時間や朝早くは襲われるようになったのだ。しかしそれに関して相棒は「飽きて」しまったらしい。
 これは由々しき事態だ。
 そもそも奴は感情で動くタチの性格をしている。今は通学路を散歩するのに飽きただけかもしれないが、それがいずれは『もう人間の相手をするのに飽きた』、と変換されるかもしれない。
 それは――困る。非常に。ともすれば合崎神無の生命存続の危機に関わる程に。

「じゃあ、今日は家でテレビでも観てる?そういえば、昼から新しいドラマ始まるみたいだし」
「ほう、それはいいな。だが、ああうっかり貴様が路上で同胞に襲われようが気付かないかもしれんぞ?」
「・・・まあ、今日は天乃さんと何が何でも一緒にいるよ」