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川沿いには出た。当然平日なのでチラチラ見える一般人は専業主婦らしき女性だとか、杖をつく仲睦まじい老夫婦などばかりだ。子供は学校という檻の中である。
そんな和やかなムードの中、一際異彩を放つ建造物がある。いや、建造物というか廃墟だ。活気づいた街の風景の中、そこだけが切り取られたかのように存在している。一目で異常だと分かった。
「これこれ!この診療所に用があったんだよ、私達は!」
文字は掠れていてよく読めないが確かにそう書いてある気がする。『××診療所』。看板の始めの方は意図的に文字が削られていて読むどころの話じゃない。
「ほう。いいな、この雰囲気。俺の第二住居としてもいいくらいだ」
「えっ、こんな寒そうな所に・・・?」
「寒いと感じているのは貴様等人間だけだろうよ。霊力が低いから寒気などという雑魚の言い訳みたいな事を言い出すのだ」
――何言ってんだろうこの人。
ドヤ顔で語って来る烏羽には悪いが、そんなものとは無縁の生活を送ってきたので何を言われているのか半分も理解出来ない。ところでその霊力とかいう代物は人間に必要なのか否かだけを簡単に説明してくれないか。
「じゃあ、私達はここで待ってるからお化け病院ツアー楽しんでね、神無ちゃん!」
「いやいや、私達だけなんて危険――」
「待機命令・・・。ごめんね、人間・・・」
淡藤が無情にもそう言い放った。どうやら今日の天乃は監督役だったらしい。
仕方無いので無言で診療所に足を踏み入れる。何をするか聞いてないが、《うろ》とやらを討伐すればいいのだろう。とても不安だ。
後ろをそっと確認すれば頭の後ろで手を組んだ烏羽が緊張感の欠片も無くトコトコと着いて来ていた。文句を言う割にこちらの仕事を手伝ってはくれるようだ。菩薩に見えてきた。
「おい、小娘。貴様、本当に診療所巡りでもする気か?」
「え?いや、さっさとお仕事終わらせて帰りたいけど・・・」
「逆だ間抜け。左に曲がれ、左に。貴様本当に契約するしか能がないのか。驚きだな、まったく」
「えぇ・・・何なの・・・なんでいきなり罵倒されてるの、私・・・」
しかし彼が嘘を吐いているようでもない――大真面目な顔だし――ので指示に従って左に曲がる。
「その部屋に入れ。・・・ふむ、手術室か」
「この小さな診療所で手術する部屋があるんだ。凄いね、今時の診療所って」
「クックック、焦臭い診療所だ。なぁ?小娘」
烏羽が皮肉のような嘲笑を浮かべても神無自身には何のことかさっぱり分からなかった。