4-2
ピンポーン、と間の抜けたチャイムの音が鳴り響く。誰だろう、と考えたのも一瞬。すぐドンドンとドアを叩く音と共に「神無ちゃん、神無ちゃーん」、という朝から信じられないテンションの声が響いた。
――間違い無い、天乃美琴だ。分かりたくは無いが声ですぐに分かった。
リビングでテレビを観ていた烏羽もこれには舌打ち。嫌そうな顔を隠しもしないが身内マンションでなければ今頃大家にクレームが行っている場面だ。
いつまでもそうしているわけにはいかないのでリビングを横断して玄関の鍵を開ける。
「やぁやぁ、おはよう神無ちゃん!さぁ、楽しい任務の時間だよ!レッツゴー!」
「レッツ・・・ゴー・・・!」
天乃の傍らにポツンと淡藤も立っている。勿論メールは読んだので何の話なのか概ね把握出来たが、残念な事に相棒こと烏羽の機嫌は底辺をさ迷っている。このままその『任務』とやらに駆り出されればまず間違い無く怪我は免れないだろう。辞退したい。
しかし予想に反してまたも気付けば落とした目線の先に烏羽の足が入った。何か近付いて来たんですけど、と心中で呟きつつ顔を上げる。
「何だ面白い話の方だったか。ふむ・・・丁度良い、現世を見て回るのも悪くはないな」
「任務だってよ、お仕事だよ。お仕事」
「知ったことか」
話はまとまった?と天乃が尋ねる。どう見たってまとまってないのだが。
「えーっと、電車で移動だね。ちょっと遠いかな。歩きでは行ける距離じゃないよ、急ぎでもないけれど」
「でんしゃ?何だそれは」
「乗り物・・・速い・・・。ウマ、より・・・」
「ざっくりした説明だな。というか、貴様は移動手段に家畜を使うのか?難儀な事だ」
淡藤の説明に溜息を吐いた烏羽。それに追い打ちを掛けるように天乃はこう宣った。
「あ。あなたは危険だから姿を隠していてくださいね!いやホント」
「引っ込んでいろ、と言うか。小娘」
「いやそうじゃなくて、人の目に触れないようにお願いします。何が言いたいかっていうと、こっち側に出来うる限り干渉しない方向で、何か浮遊霊っぽい感じでお願いします!」
「注文の多い小娘だ。が、貴様の心配は杞憂だろうな。俺の契約者は霊力濃度が薄過ぎる。いきなり俺がこちら側へ干渉してみろ。跡形もなく爆発四散するぞ、この小娘」
――マジか。
絶句する。それはつまり、すでに今の段階で烏羽その人に生存権を握りしめられているという事になるのではないだろうか。助けを求めるように天乃へ視線を移すも、彼女はいまいち事の重大さが分かっていないようでいつも通りの快活な笑みを浮かべていた。
「ありゃ、そうでしたか。要らないお世話でしたね!よし、じゃあ出発!」
「ごめん待って。まだ顔も洗ってないし、着替えてもいないんだよね。ちょっと急すぎるよね」
「えぇっ!?」
「何?あの魚類っぽい国民的アニメのリーマンさんの真似?似てるよ似てる」