第1話

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 翌朝。目覚めは最悪だった。学校に行かなければならないが、高血圧のおじいちゃんみたいに朝が早いらしい烏羽が起きてテレビを観ているのはうっすら開けた目からはっきりと見えている。憎たらしい程に晴れ晴れとした天気も神無の心を晴らすには欠片も足りなかった。
 ――いい加減起きて支度をしなければならない。学校へ行かなければならないのだ。今はテスト期間前。怠くて学校をサボるという選択肢はあり得ない。

「起きる・・・起きるんだ私・・・」

 念じながら起き上がる。
 と、寝る前に充電して眠ったスマートフォンがメールの受信を知らせた。計ったかのようなタイミングに吃驚して小さく悲鳴を上げる。「ぎゃっ」、と。

「おい、何だ今のカエルが潰れたような声は。朝から汚らしいものを聞かせるな!」
「ご、ごめん・・・」

 リビングから的確なクレームがお届けされた。そんなに煩かっただろうか、今。
 こんな朝早くから誰だ、と画面を見ればまだ午前6時半。優雅な朝を過ごすべく、大抵はこの時間に起きるが今日はちっとも優雅な気分じゃない。例えるなら親戚が泊まりに来ていて何となく落ち着かない空間にいるような感じ。
 いやそんな事よりこの時間のメール。恐らくは自動送信の類の迷惑メールだろうが、折角起きたし内容を確認――

「・・・嘘ッ!?」
「小娘!喧しいと言っているだろうが!」
「それどころじゃない!」
「そ、そうか・・・」

 非常に困惑した声が聞こえたが本当にそれどころじゃない。メールの件名からすでに嫌な予感しかしない。というか登録してないアドレスが当然のように登録されている恐怖。
 ――『《異能者連合協会・第4支部》より合崎神無様への連絡』。
 これはまさか、昨日聞いた『任務』とかいうお伽話のようなそれだろうか。

「おい、小娘。貴様はさっきから何をギャーギャーと騒いでいる」
「いや近すぎるでしょ!ここ!私の部屋!」
「黙れ。貴様も俺の部屋を勝手に横断するだろうが」
「横暴!」

 いやに声が近いと思えばいつの間にか目と鼻の先にひどく不機嫌そうな顔をした相棒こと烏羽の姿があった。腕組みをし、その片手にはリモコンが握られている。こいつ、小旅行する気でこちら側へ来たと言っていた気がするのだが。全然旅行してないじゃないか。
 こいつ、本当はそんなに恐い奴じゃないのかもしれない。今の段階ではテレビを観ているだけの休日のおっさんにしか見えない。
 ガミガミと小うるさい事を言っていた烏羽だが、不意に玄関の方へ顔を向けた。犬が怒った時のように顔に皺を寄せている。

「チッ、朝からまた喧しいのが増えるか。小娘。奴には俺を面倒事に巻き込むなよと伝えておけ」
「え?誰か来るの?」

 それには答えず、烏羽は昨日からの定位置に戻るとテレビを観る作業へ戻ってしまった。本当にそれ以外やる事は無いのだろうか。不思議である。