第1話

3-5


「よし、じゃあ読もうか。たぶん後のは――」

 言いながら天乃が書類を覗き込んできた。そして苦笑する。
 2枚目のプリント。目に入った項目は【使い魔関係】とある。つまり、天乃美琴が言う『相棒』の件だ。以下全文。

『【使い魔関係】
・深すぎる何らかの感情を持たれた場合は速やかに契約を解消する
・手を引かれてはいけない
・異界へ引き込まれた際は《うろ》の力を頼ってはいけない
・安易に返事をしてはいけない
・自身の優位性を失ってはならない
・転た寝、浅い眠りは極力控えるべし
・食べ物を貰ってはならない

・以上、全ての点を契約者に悟られないよう行使されたし
 またこの紙を見られた場合は速やかに契約を解消。それが難しい場合は《協会》へ連絡するように。この紙は速やかに処分する事が望ましい。』

 意味は大方分かる。そのルールの意味は分からないが。これは忠告ではなく警告であり、同時に天乃美琴の《うろ》とでもわかり合えるという価値観を完全に否定した内容だ。彼女の先程の苦笑、その理由が明白になった。
 ちらり、とクラスメイトの顔を覗き見る。少しだけ寂しそうな顔をしていた彼女はしかし、何も言うこと無く淡々と決まり事の説明をする。

「これはちゃんと暗記しようね。一個でもやらかすとヤバイ時は本当にヤバイから。油断しちゃ駄目だよ。私はもう淡藤にこの決まり事を教えて互いにうっかりやらかさないように注意してるけど、その、神無ちゃんの所は――」
「分かってる。それで、これは破ったりなんかしたらペナルティとかあるの?」
「無いよ。確かめようがないからね!私だって淡藤に教えちゃったし。ただ、若い子達はこの後に起こりうる現象を《神隠し》だって呼んでるよ。協会が粋な呼び方を考えてくれないからね」

 成る程、それだけで何が起きているのか概ね理解した。組織の闇は深い。
 次に行こうか、という天乃の言葉。我に返ればすでに彼女は3枚目の書類に目を落としていた。