第1話

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 話によると淡藤は天乃美琴の相棒らしい。つまり彼女等には大変申し訳無いが、自分と烏羽との関係に一致しているわけだ。彼女等には失礼だが。

「何やってるのー・・・?」
「今はね、私達の新しいお友達に協会の講習してるところだよ!」
「ふーん・・・もう、8時過ぎてる・・・よー」
「わわっ!本当だ!急ごうか、神無ちゃん!!」

 ――本当、烏羽と取り替えてくれないかな。穏やかそう。
 今にも噛み殺されそうなギラギラとした双眸を思い出すだけで億劫な気分になる。これから毎日顔を付き合わせるなんてストレスで胃が焼き切れるのではないだろうか。
 手にした書類に軽く目を通す。
 ――何だコレ、日本語だけど理解出来ない。
 難解な古文書を読まされている気分より更に苦い気分にさせられる。理解するのを早々に放棄したくなってくる読み物だ。

「はいはーい、まず1枚目ね。えっと、そうそう!異界!」
「帰っていいですか」
「駄目だよ駄目駄目!まずね、私達みたいな契約適性持ちは異界に弱いんだよ」
「・・・異界って?」

 目処は付いているものの、一応は尋ねてみる。うんうん、と偉そうに頷いた天乃は人差し指を立てて憤慨したように喋りだした。

「まぁ正確には異界を伴った怪異に弱いって事かな。今日、神無ちゃんがうっかり言っちゃった《きさらぎ駅》も異界だよ。まぁ、《うろ》がいる異界と何が違うのかとか相互性は解明されてないみたいだね!」
「えっと?異界に行くと、帰れない?」
「それは怪異にもよるかな。《きさらぎ駅》は大型の怪異で、もうすでに一般人が何人か迷い混んでるみたい。帰って来てない人が一人いたかな」

 ――予想以上にピンチだったらしい。夜宮言に頭が上がらなくなりそうでそっちも恐い。
 更に憂い顔の天乃美琴の呟きは神無に衝撃を与えた。

「怪異の創り出した異界はたまに協会員が派遣されるよ。まぁ、滅多な事じゃ回ってこないけど・・・」

 帰って来られなくなる恐れがあるのに、派遣されるのか。
 言い知れない矛盾に背筋が凍る。結局、一番恐いのは人間だ。

「あ、でも神無ちゃんは運が良いよ!だって私、何故か異界系は一度も遭遇した事無いし!多分これからも絶対に遭う事は無いんじゃないかな!」
「何その根拠の無い自信」
「幸運だからね、私!」

 あとね、と思い出したように付け加えられる。本当に彼女は説明すべき事を全て説明出来ているのだろうか。

「ここのマンションは怪異出現防止の為に協会関係者しか住んでないよ。華天さんが用意してくれたんだけど・・・まあ、言さんもそういえば住んでないや」
「結構いるの?そういう人達」
「いや・・・。ああでも、空き部屋あるからどうしても相棒と一緒にいられない時は新しい部屋を申請するといいんじゃないかなぁ」

 相棒と別部屋、という事実は天乃には受け入れがたい現状らしい。とてつもなく微妙な顔をしている。が、誰しもが相方と良好な関係を築けているとは限らないのだ。自分のところも、別居の可能性が十二分にある。