3-2
エレベーターで3階まで上り、取り敢えず天乃の部屋へ入る。何でも貰った書類の説明とこれからについて簡単に説明するそうだ。
「――あ。神無ちゃんの相棒は?まだいるのかなぁ」
「見てる、とは言ってたけど」
「じゃあいるんだろうなあ。うーん、悪いけれど《うろ》にはあまり聞かせたくない話なんだよね」
瞬間、正面の空気が揺らいだ。天乃とは向かい合って椅子に座っているので、その天乃琴美の、後ろ。ぎょっとして口をパクパクさせていると同業者である彼女から怪訝そうな目で見られた。いいから、背後を確認してくれ。
揺らぎが人の形を成す。それが何であるのか気付いた時にはどう考えたって手遅れだった。
「俺に何か用か、小娘共」
それまで姿を眩ましていた烏羽が表れたのだ。痛む胃を押さえながら何の用かとその姿を視界に入れる。やっぱりゴツイ、もっと爽やか系と交換したい。
しかしその見た目通りに天乃琴美には肝が据わっていた。
「あ、今から割と重要な話をするんで、ちょっと席を外して貰いたいんですけど」
「おう、良い度胸だな貴様」
「え?」
威嚇するような言葉を吐きながらも烏羽は愉快げに目を細めている。
おろおろと両者を交互に見ていれば先に折れたのは意外にも烏羽の方だった。
「良いだろう。所詮は人間の成す事、俺には効果などないだろうしそもそも堅苦しい話に興味はない。好きにしろ」
「わーい。あ、こっちの隣が貴方達の新居になるんでそっちの部屋は使っても構いませんよ」
壁の向こう側を指す天乃。いやいや、だったら鍵を渡しておかなければ――
そんな神無の気遣いは烏羽が要らない、と言わんばかりにシッシと振った手によって阻まれた。どうやって隣の部屋に入るのか、そう思案しているうちに烏羽の姿はあっさり消えてしまう。
「どうやって部屋に入るんだ・・・」
「あ、《うろ》には物理的障害物ってあまり重要じゃないみたいだね。うちの子もいきなりどこからか出て来るし」
「えぇ・・・」
「一説によると《うろ》は異界から来てて、そこでは物理法則そのものが違うから壁なんてものは障害物にならない、とか言ってる人もいるかなぁ。ま、確かめる方法は今の所無いんだけどね!」
「と、言うと・・・?」
激烈に嫌な予感がして問い返すとほんの少しだけ悲しそうに目を細めた天乃美琴が求めていない詳細まで事細かに述べた。
「うーん、異界っぽい所に連れて行かれて行方不明になった人ってたくさんいるけど、そこから帰って来た人は一人もいないんだよね。第3支部の実力者だった・・・えーと、名前は忘れたけど、その人もいなくなったきり帰って来てないし。もう2年も経つらしいけど」