第1話

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 夜宮言の車に乗り、向かった先は住宅街だった。こんな人が住んでる所に《異能者》なるちょっと頭が中学二年生あたりで止まってそうな人間が住むマンションなどあっていいのだろうか。いやない。
 キリキリと痛む胃を押さえる。本当に何を履き違えたらこんなとんでもない展開に陥るのだろうか。脳の整理が追い付かないと同時、冷静になって考えてみたらやはりとんでもないという言葉しか出て来ず、頭を抱える。その場のノリとかって案外大事なのだろう。

「・・・ちゃーん!神無ちゃん!!」
「ハッ!?」
「寝てたの?着いたよ、マイスウィートホームにね!!」

 ――駄目だ、頭も痛くなってきた。
 天乃琴美の言葉を聞かなかった事にし、そびえる高層マンションを見上げる。あのビルと同様、随分と人数と大きさの対比を考えていないマンションだ。

「言っておきますが、このマンションには普通の人は住んでいません。というか、うちの支部の人間しかいませんよ。ちなみに、私もここに住んでいます!一戸建てを買うお金がありませんでしたので!!異動は滅びてください」
「先生の都合なんか知りませんよ・・・。え、ちなみに何部屋くらい埋まってるんですか?」
「正確な数字は知りませんけれど、10分の1くらいは埋まっていますかね」

 ――それは案外埋まっているほうなのかもしれない。
 霊感なんて希有な才能を持っている人間が、それだけいるということであるのならば。

「んー、でも一軒家に住んでる人もいますよね。華天さんとか」
「そうですね。彼女は本部出身勢なので多少、優遇されてますし」
「棘のある言い方ですね、先生」

 本部出身が何なのか知らないが夜宮言という人物にしては珍しく明確な毒がある台詞だったように思える。皮肉の類はよく聞かされるが直接的に相手を非難するような、所謂毒を持った発言は本当に珍しい。
 ただ――それが、須賀華天に向けられた発言なのかは明瞭ではないが。もっと、別の何かを詰っているような気がしてならない。

「よーっし!じゃあ行こうか、神無ちゃん!あ、言さんもお疲れ様でした!あとは私にお任せください」
「では、私も自分の職務に戻りますよ」

 軽く手を挙げた夜宮が再び車に乗り込む。そのままこちらを見向きもせずさっさと車を発進させ、姿を消した。

「神無ちゃん!私達の部屋は3階の2号室と3号室だよ。あ、私の部屋は2号だから神無ちゃんは3・・・これ!部屋の鍵!」
「はぁ、どうも・・・」

 妙にテンションの高い天乃から鍵を受け取る。小さな金属の塊はしかし、心中と比例するかのように重たかった。