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唐突に部屋の外へ投げ掛けられた言葉に、的確な答えがすぐ返って来る。言うまでも無く本当に夜宮言は割と長い時間片時も離れずこの部屋の前で待機していたのだ。
「ええ、たった今来ましたよ。惚れ惚れするタイミングです」
「はいっ!さっき来ました!」
夜宮とは別の、もっと若くて高い声――まるで、女の子のような。
了承の意を示した須賀が部屋の外へ出る。慌てて後に続いた。こんな強面、どう見ても堅気に見えない人外と同じ部屋に放置されるなど堪ったものじゃない。
「ハローハロー!合崎さん・・・いや、神無ちゃん!」
外へ出て浴びた一言目はそれだった。思わず瞠目し、増えた人物をまじまじと見つめる。
明るい茶髪に同じ色の瞳。仕草や表情から漂う、圧倒的な明るさ。そして――これが一番大事な事実なのだが、彼女は驚く事に自分と同じ制服、同じ色のリボンを着けていた。つまり何が言いたいかというと、彼女は合崎神無と同じ学校、同じ学年の顔見知りである、という事だ。
そこまで脳で解析した後、するりと答えが出て来る。目の前の人物が何者であるのか。
「・・・天乃さん」
同じ学年どころか、同じ教室で学んでいるクラスメイト。名前は確か天乃琴美。クラスの中心的な人物である。自分のような本の虫、一部の人間としか付き合いのない人間には無縁の存在だ。
「おい小娘。そっちの小娘は貴様の知り合いか」
「・・・いや、別に・・・」
「えぇっ!?酷いよ神無ちゃん!同じクラスじゃん!!」
《うろ》の問い掛けに対し、正直に答えたところ天乃琴美から大音量のブーイングを食らってしまった。純然たる事実なので曲げようがないのだが。
はいはい、と須賀が幼稚園児をまとめるように手を叩いた。単純ではあるが一同の視線が彼女に集まる。
「琴美、彼女を頼んだよ。言もね。私はそっちの《うろ》――烏羽と話をしなければならない事がある」
「ほう、人間風情が。俺と対等に話をしたいと?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている烏羽。怯むこと無くそれを睨み付けた須賀が、手を振る。早くどこかへ行けという事らしい。
ピリピリとした空気をものともせず、天乃は元気一杯に片手を挙げた。
「了解っす!よし、じゃあ行こう神無ちゃん!」
「え、どこに」
「ロビーだよ。色々説明しなきゃいけない事が・・・ね?先生」
そうですね、と夜宮が頷いた。