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「私は外で待機していますよ。何かあれば呼んでもらって構いませんから」
部屋まで着いて来た夜宮言はそう言って部屋の中へは入って来なかった。予想通りの言葉だったのか須賀に驚きの顔は無い。ズルズルと神無を引き摺るようにして部屋の中央まで歩みを進める。
しん、とした部屋だった。およそ音の全てが吸い込まれ、吸収されているのではないかと錯覚する程に。実際その通りなのかもしれない。
「さて、君の相棒を喚び出すにあたって一応の注意事項がある」
「・・・」
「何、簡単な事さ。君は君の優位を決して忘れてはいけない。少しでも恐れを前に出してみろ、すぐに舐められる事になるからね」
「あの・・・もうあなたの言う通りにするんで、一つだけ良いですか」
「ん?聞こうか」
「・・・まさか、変な化け物とか出て来たりしませんよね」
《うろ》――《虚》。そう脳内でイコールした神無はとてもじゃないが許容出来ない、酷く現実離れした『何か』が出て来るのではないのかとそれだけが気掛かりだった。須賀が言う通り『相棒』という枠組みになるのであれば、グロッキーな外見をした生き物を侍らしたくはない。
一瞬だけ変な顔をした彼女はややあってクスクスと笑いながら問いに答えた。
「見た目だけは我々と変わらないさ。それはまぁ・・・君の霊力量にもよるだろうけれど、死に際が近い高齢の適性者も君の想像する変な化け物を喚び出した事は無いよ。安心するといい」
「そう、ですか・・・」
「じゃあまずはこれを持ってくれ」
「あの。これ、刃物に見えるんですけど」
渡されたのは果物ナイフだった。少し暗めの明かりに照らされて不気味に刃が輝いている。
「君は漫画とかまったく読まないのかい?普通、召喚の儀式と言ったら血だとか髪の毛だとか、そういった類のアレコレを使うだろう?」
「現実の話をしているんですよ、今は。まさか雰囲気でこんな物を渡したわけじゃないですよね?」
「どの指でもいいから、少し切って中央の円陣の中に血液を垂らしてくれないか。そう多い量じゃなくていい。点くらいで」
――本気だった。痛そう。
裁縫針で手を指しただけでも狼狽えると言うのに、自ら手に傷を付けるなど躊躇うに決まっている。案の定、行動を停止した神無に対し、つかつかと須賀が近付く。
「ふむ、無茶振りだったようだな。少し大人しくしていてくれ。私がやろう」
「え!?いや、いいですって!危ないですからやめっ――」
もみ合いになったがあっさりナイフを取り上げられる。それはもう、目を見張る程鮮やかな体術だった。
「うう、痛い・・・」
「我慢してくれ」
傷害事件だ、と抗議しようとしたがすでに須賀はこちらに目もくれず、いつの間に取り出したのか古い本のページを捲っていた。何事か嫌味でも言ってやろうと口を開き掛ける。瞬間、背中を押されるような突風に足がもつれた。