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 そんなブルジョワっぽい言い訳をかましてくれた彼女への助け船を出したのは夜宮言だった。クスクス、と本当におかしそうに笑いながら何となく噛み砕いて事の顛末を説明してくれる。

「《異能者連合協会》、というのはですね、異能を持った人間が寄り集まって出来た協会なんですよ」
「・・・異能って例えばどんなものの事を言うんですか?」
「良い質問です」

 まるで授業中であるかのようにすらすら、すらすらと夜宮言は神無の問い掛けに答えていく。それは淀みなく、的確に脳へ浸透していった。

「君にも分かりやすいように言うならば、例えば霊感、とかですかね。先程華天さんが言った『契約適性』というのは・・・うーん、猛獣使いだとか、そんなものに似ていますかね、ええ」
「もうじゅう・・・?」

 猛獣とは言わないな、とそれまで黙って説明を預けていた須賀が口を挟んだ。ニヒルな笑みを浮かべた彼女は眼鏡を外し、机の上にそっと置く。

「我々は『それ』の事を《うろ》と呼んでいる。言の説明に則って解説するのならば幽霊、とでも言うのかもしれないね。しかし、彼等は霊と言うにはあまりにも凶悪過ぎるきらいがあるが」
「ですから、猛獣と訳したんじゃないですか。間違ってはいないでしょう?」
「お前には契約適性が無いからそんな事が言えるのさ。猛獣に知性は無いが、奴等には知能がある。人間程――否、それ以上のね」

 ――つまり、猛獣より知能があって且つそれは人間をも凌ぐと。
 そんなもの、人間なんて一溜まりもないじゃないだろうか。何せ、人間はひ弱だ。知能の低い動物にだってどうかしたら押し負けてしまう。猛獣使い、と例えたのならばそれを使役するまでがセットだ。
 脱線した話が戻って来る。夜宮の言葉によって。

「で、そんな《うろ》を喚び出し、使役出来る能力を契約適性と言います。そして残念な事に君にはその適性がA以上もあると華天さんはそう言ってしまいましたので――」
「おめでとう。今日から君は晴れて我々の仲間だ」

 そう言って須賀華天は微笑む。娘が新しく増えた、そういうテンションだ。信じられない。出来事の渦中にいるはずの自分が最も話に着いて行けてないという事実に誰も気付いていないのだ。

「・・・はい?」
「適性C以下は切り捨てだったから、そうであったのなら次からは怪異に巻き込まれないよう無難にレクチャーして帰すつもりだった。けれど、君には我々と共に活動する能力がある。よって、今日この瞬間から君は我々の仲間だよ」
「何ですかそのジャイアニズム・・・え?何かのドッキリ・・・?そもそもうろって何なんです?」

 さっき電車に乗っていたでしょう、と夜宮言が言う。そう、確かに自分は電車に乗っていたし認めたくは無いが未知のトラブルに巻き込まれたのも事実だ。・・・認めたくは無いけれども。

「あの電車。今流行っている『きさらぎ駅』に繋がっていたんですよ。で、ああいった怪異を引き起こした先で餌を待っているのが《うろ》です。というか、怪異と《うろ》が密着して初めて霊感の無い人間に影響を及ぼします。ですが、君には私達の言う異能があったので噂話で終わるはずだった怪異に巻き込まれた、という事ですね」
「何ですか、きさらぎ駅って」
「君が電車を降りたあの駅です。あれ、降りちゃ駄目だったらしいですよ。そういう話、君はしないだろうから知らないでしょうけど・・・」

 だとしたら本当に彼には感謝しなければならないだろう。何せ、駅を降りてしまった合崎神無を救い出したのは間違えようもなく彼なのだから。