04.
盛大な溜息が1つ。
そして、丁寧に説明してくれる声が1つ。言うまでも無くイーヴァだ。
「召喚術って言うのは、現在地以外の世界の住人を喚び出す、魔法に分類される術だよ。タイプの違う形式が2つあるけど、多分混乱するからその内説明するね」
「あの、良いでしょうかイーヴァ先生。それってもしかして、私もここに召喚されて来たって事にはならない?」
「大いにあり得るね。でも、近くに術者がいなかったから違うかもしれない。必要があったから喚んだのであって、喚んでおいて放置するのはおかしいと思う」
「事故ったんじゃない?」
「野良召喚師はたまに事故を起こすけれど、野良召喚師って低ランクが多いし、『人間』は喚び出せないと思う。人に限らず、フェイロンみたいに人の言葉を喋って意思疎通が出来るような住人を喚ぶ為にはランクA以上は必須だから」
召喚師、と言うのはランク社会のようだ。
努力して伸びるのならいいが、持ち前の才能とかだったら最悪じゃないのかそれ。
「ちな、イーヴァは?召喚術とか出来ないの?」
「昔は召喚師になろうと思ってたんだけど、適性Eしかないから無理。今は錬金術師をやってる」
「錬金術!?え?金の延べ棒とか生成しちゃうやつ!?生産性抜群じゃん!」
「そんなに都合良くは行かないよ。錬金術は1を2にするんじゃなくて、1aを1bにかえるような技術だから」
話を総合すると、とダリルが口を開いた。
「えーっと、召喚術は知らなかった、錬金術は存在してるっていう世界なんだね?」
「え?いや、どっちも無いですけど……」
「そ、そっか。じゃあ魔法は?魔法は存在しているの?」
「ありませんね」
そっかー、とダリルが項垂れた。彼の推理にノイズを生じさせてしまった事については謝罪したい気分なのだが、如何せん本当の事なのでどうしようもない。
箸にも棒にもかからんな、とフェイロンが独りごちる。
「引っ掛かりの無い世界だ。アーティアに接続出来る部分が見当たらぬが……まあ、ともあれまずは神殿か」
「分かった!きっと私、キャトられたんだよ!」
「次は何を言い出すんだ」
「えーと、あれだよあれ。何かUFOに連れて行かれて、脳内改造とか!」
「そのザックリした説明では何も伝わって来ぬが、強いて言うのならば確かに主の頭は改造されて空っぽであろうよ」
そうだ、とロイが机を叩いた。
「ごめんな、珠希。すぐに出発したいかもしれないけど、俺、この村に人捜しに来てんだよ。2日くらい泊まっていいか?」
「あ、全然大丈夫。用事があるならそっちを優先してくれて構わないし、あまり気を遣わなくても……」
「え、いきなり塩らしくなって不気味」
「不気味!?失礼が過ぎるだろ流石に!」
ちら、と時計を見る。時刻は午後3時。
やる事も無いのに昼の一番過ぎていかない時間帯だ。そろそろお開きになりそうな流れだし、今からどうやって時間を潰したものか。
思考しているにも関わらず、イーヴァが締めの言葉を述べ始めた。
「じゃあ、夕食までは各自好きにしてるって事で。ごめんね、珠希。ダリルとかフェイロンは暇だろうから、聞きたい事があるならそっちに聞いてね。私は今から少しやる事がある」
「あっ、いやだから全然気にしなくていいから」
「時々聞き分けが良すぎるの、ちょっと恐いよ」
「何そのアドバイス!日本人はみんなこうだよ!空気を読み込み過ぎちゃう民族だからね!」
ダリルは普通にジェネレーションギャップの関係で話が続かないだろうし、フェイロンも独特の価値観で絡みにくい。折角だし、村を散策してみようかな。